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ユートピア?ディストピア?

ユートピア?ディストピア?



 

こんにちは。院長の山崎です。

 

ユートピアときくとどんな世界を思い浮かべるだろうか?

何の心配もない世界
~食べ物を十分与えられ、住むところに困らず、好きな家族と共に過ごせる、天敵がいない生活。~

誰しも一度ならず、過ごしてみたい、と思ったことがあるだろう。
1968年~1972年にかけてアメリカの動物行動学者ジョン B. カルフーンは、繁殖に必要な十分なスペースと無限の食糧を与えられたら、ネズミはどのような社会を作り出すのか?という実験を行った。

■フェーズA
2.7x 2.7メートルのスペースに256個の巣箱(1個の巣箱につき15匹が生活可能)が用意され、垂直に伸びた16本のトンネルと4本の水平のトンネルで自由に出入りできるように設計された。
水も食料もふんだんに切れ目なく与えられ、ネズミにとって必要なものはすべて用意された施設。ここに4組のつがいのネズミ計8匹が入れられた。
→この施設に入れたネズミは、新しい環境に慣れて縄張りを作り、巣作りを始め、104日後から出産を開始した。

■フェーズB
個体数は順調に増え続け、315日目、個体数が620匹となった。

■フェーズC
それまで自由に巣箱やえさ場を選んでいたネズミたちは、なぜか一か所に集まり始め、決まった巣箱で固まって生活するようになった。
そして15匹しか入らない巣箱に、111匹がぎゅうぎゅうに詰まって暮らすという不自然なことが起き始めた。餌場も何カ所もあるのに、なぜか同じ時刻に、同じ餌場で、奪い合うように一斉にエサを食べるようになった。
*ネズミにはテリトリーがあり、このような密集状態を避け、コミュニケーションをとりながら規律ある行動をするのが普通である。だが、このタイミングでネズミたちの行動パターンが大きく2つに分かれた。

A.集団として行動する3分の1のネズミ達. と、
B.テリトリーを持たず、他のネズミとコミュニケーションをとらず、繁殖もせず無気力に過ごす3分の2のネズミ達. である。

B.はネズミの社会ルールである決まった巣を持たず、床で寝るという奇妙な行動をし、メスに相手にされなかった。
A.のオスはエサを独占しようとするあまり、B.のネズミを攻撃するだけにとどまらず、自分のパートナーや子供たちをも、見境なく攻撃した。メスたちはオスが守ってくれないため、次第に自分たちも攻撃的になっていく。そして子どもを守るどころか、早期に巣から追い出し始めた。巣を追い出された子どものネズミは、A.のオスの攻撃から身を守るため、個々で生きていくしかなかった。

■フェーズD
この育児放棄されたネズミたちが親になった次の世代。社会性を学ばなかったため、テリトリーもわからず、ただただ食べて毛づくろいをするだけの生活。発情しても、オスがメスに求愛し、メスが巣箱に招き入れるという求愛ルールがわからず、オスはメスの後をストーカーのようについて回り、未成熟のオス同士で交配しようとし始めた。たまたま産まれた乳児さえも子育てするものがいなかったため、乳児死亡率は90%に達した。

■フェーズE
560日後、すべてのネズミが無気力なネズミになり、暴力も争いも交配もなくなった、ただ静かに彼らは生きているだけだった。最大2200匹まで増えたネズミたちは猛スピードで減り始め、920日後、最後のオスが死んでネズミたちは全滅した。ちなみに、実験者は25回繰り返すも、結果はすべて同じ。

 

どれほどの空きスペースがあり、どれほどのエサがあっても、個体数があるラインを越えたネズミたちは、わざわざ過密する場所を選び、集団行動を好んだ。
その結果、エサを独占する強者とはじき出された弱者が生まれ、階級化が進んだ。弱者は社会性を失い、強者はより暴力的になって子どもさえも殺すようになった。
他にエサがあっても、弱者は強者の独占するエサを欲しがり、他に巣箱があっても強者と一緒にいようとしたのだ。
生き残った子どもネズミたちは成長しても社会性がまったくなく、ただ食べて寝て死ぬだけ。この実験は利用可能な空間や、社会的役割が埋まると、個々の社会行動を崩壊させ、終焉を迎えるという結論なようだ。ネズミを使った実験がどの程度人間の行動を解き明かすのに役立つかはわからない。

今の地球も人口は増え続け、都市部は過密と言っていいほどの人であふれかえり、AIなど科学の発達により社会的役割は埋まってきつつある。終焉を迎えないためにはどうしたらよいのだろう?

私たちが生きたいのはいかなる社会で、いかにして人として生きるのかを今一度考えなければならない。






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