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🌸山村ヒガシ氏エッセイ第7弾 「オノマトペ」がコミュニケーションを豊かにする🌸

🌸山村ヒガシ氏エッセイ第7弾 「オノマトペ」がコミュニケーションを豊かにする🌸



さくらクリニック練馬 院長の佐藤です。
久々の山村ヒガシ氏のエッセイ 第7弾です。
前回同様、とっくの昔に原稿をいただいていたのに、私のところで止めてました。ヒガシさん ごめんなさい。

みなさんは「オノマトペ」ってご存知ですか?
私は山村ヒガシ氏の往診中に初めてこの言葉を聞き、ふざけてるんだろうと思ってググってみたら、ちゃんとした単語でした。(恥) 💦
「オノマトペ」を知っている方も知らない方も、ヒガシ氏のエッセイを読んで理解を深めましょう。
では、どうぞ。

オノマトペってなに?

私はオノマトペが好き。

オノマトペとは、私達が日頃から何気なく使っている「カンカン」や「トントン」(パンダではないです)のような擬音語や擬声語、擬態語を総称したものだ。
世界的に見ても、特に日本語はオノマトペの数が多い言語と言われており、円滑なコミュニケーションを取る上で大きな助けとなっている。

ネット情報より:https://dime.jp/genre/1047619/

なんとか歩けていたALS発症初期の頃、私は2年ほど阿佐ヶ谷に住んでいた。近所に『オノマトペ』という小さなギャラリーがあり、「オノマトペってどういう意味だ?」ってところから興味を持ち、たまたまテレビでやってたオノマトペ特集を観て、「ああ、なんか面白いな」と思ったのがきっかけだった。

ミンミンうるせーなぁセミ」「あ~あ、お腹ペコペコだよぉ」「はぁ~、財布がスカスカだぜぇ」「おまえの顔はツルツルでいいよなぁ、俺は乾燥でカサカサだよ」「このラーメン、背脂多すぎてギトギトじゃね?」「100本ノックぐらいでヘロヘロになってんじゃねーよ! おら~、いくぞ!」「ああ、ごはんベチャベチャだぁ、間違ったかなぁ水」

思いついたのをいくつか並べてみたが、人の会話を観察するとオノマトペがいっぱい。あちこちオノマトペ。立て続けにオノマトペ。どこもかしこもオノマトペ。日本語はオノマトペで溢れかえっている。

数年前のことだ。私は胃ろうが痛かった。肉芽(にくげ)は大きくなり、出血もし、リンデロンをいくら塗っても治らなくて困っていた。そしたら主治医が「どんな風に痛い? キリキリ、ズキズキとかヒリヒリとか……」と。痛みの感じでどういう炎症かがだいたい分かるという。思い返せばこんな時にもオノマトペ。

芸能人がテレビでやってる食レポも、海老がプリプリ、ごはんがモチモチ、玉子焼きがフワフワ、チャーハンがパラパラ、オムライスがフワトロ、角煮がホロホロ、レタスがシャキシャキ、ラムネがシュワシュワ、クッキーがサクサク……ほら、オノマトペだらけ。

昔話をひとつ。学生時代にコンビニの夜勤のバイトをやっていたのだが、毎日同じ食パンを買う常連のオッサンがいた。あるバイト仲間がオッサンに「この食パン好きですよね?」と聞いてみた。オッサンはこう言った。

ふん~わりしてるのよこの食パン。ふん~わりが美味しいんよ。ふん~わり、いいよね」

この日からオッサンはふんわりと呼ばれ、外で見かけても「あ、ふんわりだ。どこ行くのかなぁ」ってな感じ。懐かしきふんわり。あだ名にまでオノマトペだ。

オノマトペ論争 

話を現在に戻そう。
いつだったか、ヘルパーさん達の中でオノマトペ論争が勃発した。まあ争ってはいないけども、ちょっとしたエピソードだ。

私のケアの中で、ヘルパーさんがティッシュを丸めて鼻の穴に突っ込み、何度か回転させて鼻を掃除するという作業がある。多分ALS患者はこれをやってる人は多いんじゃないかなぁ。だって手が動かないんだから。

それでこの作業の名前を決める時に、あるヘルパーさんはクリクリと言った。そしたらあるヘルパーさんはグリグリと言った。なるほど、両方とも分かりやすいと思った。

クリクリの方が可愛いですよぉ~」

グリグリの方が男らしくていいと思うんですけどねぇ~」

そういった論争があったかは定かではないが、結局クリクリに決まった。

可愛い? たしかに可愛いかもしれない。響きがいいよね、明るい感じがするし。男らしさはいらないかなぁ。それにクリクリの方が文字盤で伝えやすい。オノマトペはケアの名前にまで進出した。

(*これ、大事。透明文字盤で濁音を使うには、もうひと手間かかります)

そしてこのクリクリを新人ヘルパーさんに教えるのがまた大変なんだよね。ティッシュの丸め方やどこまで突っ込んでいいかなど、教えた時にできても次のケアはできないとか、その場合は文字盤で教えないといけない。でも文字盤は雰囲気や間(ま)、ニュアンスなど感覚的なものは伝わらない。
ちょっと誰かさあ、感覚的なものがジャンジャンバリバリ伝わるコミュニケーションツール作ってくれよぉ~。
ん? もしかして既に存在してる?

オノマトペが好きになるなんて、私はきっと日本語が好きなんだよね。他にもあいまいな表現や色んな言い回しがあるのも楽しい。母国語が日本語で良かったよ。そんな日本語をもうしゃべれないなんてなぁ……。

ああ素晴らしきかなオノマトペ。みなさんはオノマトペをたくさん使っていますか?

山村 ヒガシ

主治医の感想

いかがでしたか?

ほかの言語に比べて、日本語にはオノマトペが多いのはなぜか?
日本語という言語の表現力の豊かさのおかげで、日本人には微妙なニュアンスを伝える感性の豊かさがあるんだろうと思います。
例えば

  • 中原中也さんの「サーカス」という詩の「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」
  • 宮沢賢治さんの「風の又三郎」の冒頭「どっどど どどうど どどうど どどう」

一度読んだら忘れられない 独特な表現。これらもオノマトペです。

そして個人的には、日本の漫画文化の発展が、オノマトペの進化を更に加速させたと感じています。
昔は「漫画ばっかり読んでいるとバカになる」と叱られたものですが、いまや日本の漫画は世界に類を見ない独自の総合芸術の域に達しています。 これは大いに誇るべきですね。(注:個人的にマンガ大好き)

ともあれ オノマトペが「円滑なコミュニケーションを取る上で大きな助けとなっている」のは確かです。短い言葉で、イメージがリアルに、ダイレクトに伝わりますから。

ヒガシ氏は病気のため話すことはできないのですが、こうして楽しいブログを書いてくれるだけではなく、診療の場面でも透明文字盤で それはそれは豊かにいろんなことを伝えてくれます。

 

私が往診するときは必ず同席してくれるヘルパー 室橋さん。ヒガシ氏との付き合いは長く、流れるように文字盤を操作します。

ヒガシ氏は言葉で微妙なニュアンスまで伝えようとこだわり、室橋さんは「オノマトペ」をポンポン繰り出してイメージを伝える。

この二人のやりとりは掛け合い漫才の様で、聞いていてとても楽しいし、病人とその介護をするヘルパー、という域を超えて、対等な立場で自然なコミュニケーションが成立しているのが、見ていて気持ちいいのです。

声が出なくても身振り手振りができなくても、本人に伝えたい思いがあって目が動き、透明文字盤のスキルと人間力のあるヘルパーさんがいれば、それなりに楽しくおしゃべりして過ごすことができます。

そう、ALSの患者さんが「不安に思うこと」の第一位は「からだが動かなくなること」ではなく「コミュニケーションがとれなくなること」。

患者さんがその人らしく生きていくためには、コミュニケーション支援の大事さを理解し、日々患者さんのためにスキルを磨いてくれるヘルパーさんの存在が絶対に必要なのです。

なので私たちは、一人でも多くのヘルパーさんにこの現場に関わって一緒にがんばってほしい、と切に切に祈っています。






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