🌸私の皮膚科の師匠をご紹介します(コラム「Enjoy! ALS」連載再開記念)🌸
🌸私の皮膚科の師匠をご紹介します(コラム「Enjoy! ALS」連載再開記念)🌸
2025年05月29日

さくらクリニック練馬 院長の佐藤です。
梶浦さんの連載コラム「Enjoy! ALS」については、以前このブログでもご紹介させていただきました。
https://www.ns-pace.com/article/category/column/a3546/
2021年から月1回2年間、計24回の連載。
これを全部読めばALSと診断された患者さん、ご家族にとって貴重な参考書になるのはもちろん、自宅療養を支えるコワーカーの皆さん、のみならず病院で神経難病の患者さんに関わる医師、看護師の皆さんにも是非読んでいただきたい内容です。
で、これが大好評だったそうで、今年の4月30日から第二弾(Enjoy! ALS 2)の連載が始まりました。
https://www.ns-pace.com/article/category/column/enjoy-als2-1/
さて 読み終えた方々
末尾の自己紹介で、さくらクリニック皮膚科医 と署名しているのにお気づきになったでしょうか?
今や梶浦さんは、私の患者さんであると共に皮膚科のご師匠であらせられます。
今回のブログに上がっている2症例のみならず、たくさんの患者さんの皮膚病変についてご相談し、助けていただいています。
Contents
さくらクリニック皮膚科医ご就任の経緯
在宅療養されている患者さんに皮膚トラブルが起きた時、皆様 通院困難だから私たちの訪問診療を利用されているわけなので、「ちょっと皮膚科に行って診てもらって」という訳にはいきません。
往診してくださる皮膚科の先生方も、そう多くはありません。
となると主治医が何とかするしかないわけです。
訪問診療を始めてからは、セミナーに出たりネットで相談したりしながら、手探りで診断と治療をおこなってきました。
私が梶浦さんの往診に入ったころから、彼は皮膚科専門医としてリモートで相談にのっていました。
ご自身も「ヒポクラ」に触れてらっしゃいますね。
https://www.marketing.hpcr.jp/hpcr
で、往診時に雑談がてら「こんな患者さんがいるんだけど」と相談したりしているうち、診察や処置より相談に乗ってもらっている時間の方が長くなっていきました。💦
さすがに申し訳ないと思い、当時はコロナ禍でオンライン診療が推奨されていたので、その形式で勤務してもらおうと考えたのですが、そこで大きな壁が!
オンライン診療はビデオ通話(TV電話)が鉄則。
梶浦さんはカミカミスイッチで文字入力できますが、とても時間がかかります。なのでビデオ通話での診療は患者さんにとっても梶浦さんにとっても負担が大きく、現実的ではありません。
なので、残念ながらオンライン診療は諦め、以下の様にして梶浦さんに診療をお願いすることにしました。
1. 主治医が訪問先の皮膚トラブルの画像を撮ってカルテに貼り付け、病状や経過を文章で申し送る。
2. 梶浦さんに「患者さんのご相談です」とmailする。
3. 梶浦さんがカルテ(オンラインです)にアクセスし、アドバイスを入力する。
4. 主治医がそれを読んで対応する。
主治医が十分な情報を提供し、情報のやり取りをして患者さんの診療に役立てているのに、オンライン診療を認められないとは、残念!
梶浦さんでなくても、日中忙しい皮膚科の先生も、この方式なら診療にご協力いただけると思うのです。
わたし達の様に訪問診療に携わっている医師のみならず、医療資源に乏しい地方の方々も、皮膚科専門医のご意見をいただけたら助かると思うし、何とかそういう流れで診療報酬の点数がつかないものか、と切に思います。
症例報告
では、梶浦さんがブログで提示した症例を、順にご紹介させていただきます。
症例1
80歳女性(当時)
パーキンソン病を発症して17年。
初診の時点で 寝たきりでADL全介助。コミュニケーションも殆どとれない状況。
覚醒度低下と嚥下障害のため、食事量が激減。ご主人が献身的に介護にあたり、ゼリー状栄養剤を中心に食べさせているが、食事量にはムラがあり、まる1日食べれない日もある。栄養状態はかなりよろしくない。
初診時、治療方針についてご主人と相談しました。
- 胃瘻は作らない方針でずっとやってきた。→最期まで「natural coarse」でいくことを確認。
- 補液は、目的に応じて一時的に行うことはあっても、「食べれない」という理由で漫然と補液を継続することはしない。
(→私は終末期の補液はしないほうが良いと思っています。
が、ご本人の思い、ご家族の思いを拝聴しながら、最終的にはご本人とご家族に決めていただいています。詳しくは以前ブログに書いたことがあるので、そちらをどうぞ。)
終末期における輸液
https://sakura-cli.jp/nakano/archives/1926
口からご飯が食べれなくなったら・・・(その1)
さて、この方は初診時に仙骨部~臀部にかけて7㎝×4㎝台の発赤がありました。一部びらんし、小さいですが黄色壊死もあります。
嫌な予感・・・。
案の定 翌週には黒色壊死を生じていて、皮膚を押してみるとプカプカ。
壊死組織を切除したところ皮下に巨大なポケットを形成していました。
ポケットを伴う褥瘡は、ポケット部分の皮膚を大きく開かないと治りません。かなり大きいので少しずつ、範囲を決めて毎週ポケット切開と皮膚切除を繰り返しました。
そしてかれこれ4か月。
ポケットはだいぶん浅くなり、きれいな赤い肉芽が上がってきたし、よし、もう少し・・・。
というところで問題発生。
周囲の皮膚が白っぽくなっているのはゴム状に変性しているから。これを切除しないと治せない。ただしこの時点で栄養状態は更に低下。
栄養の指標となるアルブミン値が2.2。貧血も進行してHb 8.2.
かつ背部~臀部にかけて紫斑と紅斑が混在。
毎週毎週、局所麻酔をするとは言えお尻の皮膚を切って痛い思いをさせて頑張ってきたんだから、きれいに治してあげたい。いや、でも、もうここまでなのか?
悩ましい・・・
そこで梶浦さんに写真を見てもらったところ、
- 栄養状態不良、凝固系異常などがベースにあり、terminal stageに近い。
- この状態で積極的な外科治療はもうしない方がいい。
ですよね・・・、引き際です。このアドバイスで私も踏ん切りがつきました。
その後は治癒を目指すのではなく感染防御にシフト。
洗浄+ユーパスタ軟膏で保存的に対応しました。
患部の感染を起こすことはなく、2か月ほどして、ご自宅で静かに息を引き取られました。
働く動機
カミカミスイッチで電子カルテを操作し、文字入力するのは、なかなかの手間です。たぶん私がこうして書いているのの30倍くらい(適当)の労力が要ると思います。
そして徐々にですが、梶浦さんは目が疲れやすく、長時間頑張っていると瞼が下がってくるようになっています。
相談を控えようか?と尋ねたら、「いや、大丈夫。どんどん相談して!」と。
今やさくらクリニックの患者さんに加え、訪問看護の看護師さんとか、うちのスタッフや家族(主に小さなお子さん)まで相談に乗ってもらっています。(働いていると、平日外来受診はけっこう厳しいのです)
梶浦さんは、人の役に立ちたい、という気持ちが異様に強いのです。
医師という人種は、そういうもの(&そうであるのが望ましい)なのですが、彼の思いは人一倍強い。
病院での診療ができなくなった。でも何とかして診療に関わりたい。
一方 医師である自分が「難病中の難病」と言われるALSに罹患したからこそ、役立つ情報を発信したい。
先日雑談しているうち、「オレもいつかロックトインになるのかなぁ」と、ちょい笑いながら言っていました。
ASL患者さんが恐れているLocked in state. 完全に意思伝達ができなくなる状態。
その可能性を重々知っているからこそ、今この時間をとても大事にしているのでしょう。
今できることを、できるだけしたい。
病気になったから経験できたこと、工夫して上手くいったこと、自分の経験から誰かの役に立てそうなことを発信したい。
そんな思いで梶浦さんは日々iPadで診療と原稿作成に当たっています。
(ゲームも結構するけどね!)
それに加え、大学に呼ばれて看護学生さん向けにセミナーを何度もしています。
梶浦さんが蒔いた種が、やがて聴講者の心の中で芽吹き育ち、将来的難病支援チームに加わってくれるかもしれない。特に若いヘルパーさん達が少なくて、何とか呼び込みたい。
今や梶浦家はちょっとしたプラットホームになっているんです。
ここでヘルパーさんが育ち訪看さんが育ち、難病患者さんの自宅療養の質をどんどん上げていくこと。
それは私と梶浦さん、共通の願いです。
彼がこんなに頑張っているんだから、私も頑張りたい。
同じ志を持つ方、どんどん梶浦さんのもとに集ってください。
一緒に高みを目指しましょう。
*症例報告が長くなってしまい、スイマセン。症例2は次のブログで。その他にもたくさんお世話になっているので、準備症例報告していきます。長文になるので、少しずつ書いていきたいと思いますので、続編に期待してください。