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🌸バイパップ入門🌸

🌸バイパップ入門🌸



さくらクリニック練馬 院長の佐藤です。
山村ヒガシ氏の「🌸決まったぁぁ! 必殺バイパップゥゥゥッ!🌸」をお読みになって、何それ、わからない、と思った方のために、なるべくわかりやすく解説します。
ALSの診断を受けた方、ご家族、支援者の方々も、知識の整理整頓のためにご一読ください。

バイパップって何?

BIPAPとはBiphasicPositive Airway Pressure(二相式陽圧呼吸)の略で、NPPV(Non-invasive Positive Pressure Ventilation:非侵襲式呼吸器)の換気モードの一つです。

呼吸器、と聞くと「喉に穴を開けるアレ」を連想する方が多いと思いますが、気管切開せずに強制換気できる呼吸器がNPPV(だから非侵襲式と呼ぶ)です。
ALSの場合は、NPPV=バイパップと思ってもらって構いません。

近年はコンパクトで操作しやすい機種がたくさん出ていて、使いやすいです。
ちなみにこのバイパップのサイズは
こんな感じ。
重さは2.5kgです。

ALSにおける呼吸筋麻痺

今回はALSの患者さんに限定して説明しますね。
ALSは筋肉を動かす神経が徐々に変性・脱落してゆく病気です。
呼吸筋も例外ではなく、進行とともに呼吸が弱くなっていきます。
病気のどの段階で呼吸筋麻痺が生じるか、どのくらいの速さで症状が進行するか、は個人差がとても大きくて、発症から10年以上経過してからジワっと顕在化する方(=ヒガシ氏はこのタイプ)もいれば、発症1年未満で急速に呼吸状態が悪化する方もいます。

呼吸が弱くなると、血液内の酸素が減り二酸化炭素が溜まっていきます。
酸素が減る(=低酸素血症)だけならHOT(在宅酸素)で酸素を入れればいいのですが、二酸化炭素が溜まる(=高炭酸血症)は、呼吸器で強制換気しないと改善しません。
そこでバイパップの登場となります。

バイパップの導入時期

導入のタイミングを見極めるのは医師の仕事。
検査で下記の様なデータが出たら、そろそろ、です。

  • 二酸化炭素分圧が45Torr以上
  • 睡眠中に酸素飽和度が88%以下の時間が5分以上持続
  • 努力性肺活量(%FVC)が50%以下、あるいは最大吸気圧(MIP)が60cmH2O以下

と言われても???ですよね。
大丈夫。これは医者の仕事です。

ご本人の自覚症状としては、「息苦しい」とはっきり自覚する前に、気をつけるのは下記の様な症状です。

  • 夜間や早朝に息苦しさを感じる
  •  睡眠中に何度も目が覚める・熟睡できない
  • 日中の強い眠気やだるさがある
  • 朝起きたときの頭痛
  • 会話や食事のときに息切れする

思い当たる節があったら、主治医の先生に相談してくださいね。

バイパップ導入はご自宅がおススメ

これは確信をもって言えます。
バイパップ導入目的で入院するのは時間がもったいないです。
練習している時以外はめちゃくちゃ暇、なので、家で普通に生活しながら、少しずつ練習していく方がいいと思います。
「家で呼吸器を導入するなんて、不安」と思われるかもしれませんが、適切に管理すれば大丈夫。
ただ呼吸状態が非常に悪く、即刻導入&常時装着して呼吸管理しなければならない方は、入院していただいています。
そんな状態でバタバタと入院しないよう、タイミングを逃さず、早めにお試し感覚で使ってみるのがお勧めです。

マスク選び

自宅で導入する場合、以下の様に進めていきます。
マスクの種類はたくさんあります。

例)以前勉強会で使ったスライドより☟


英語でごめんなさい。
Total face maskは顔全体を覆うタイプ。
これを使うことはめったにありません。

Full face mask(日本語だと鼻口マスク)は鼻と口を覆うタイプ。
メリットはしっかり換気できること。夜口を開けて寝てしまっても大丈夫です。
デメリットは、口を覆ってしまうので声が聞こえにくいこと、食べるときに外さなければならないこと。
Nasal mask
(日本語だと鼻マスク)は鼻だけ覆うタイプ。
これなら喋ったり食べたりするのに支障ありません。
就寝中、口元が緩むとエアが漏れてしまうのが難点です。

理想は日中は鼻マスク、就寝時は鼻口マスクですが、最初は「いちばんストレスの少ないマスクから始めてみる」でいいです。

当院で特に人気があるマスクは、このピンク色で囲っているもの(鼻口マスクはアマラビュー、鼻マスクはドリームウェア)です。
業者さんにお願いすると、色々持ってきてお試しさせていただけます。

呼吸器の設定

呼吸器の設定は、最初はS/Tモード。
これは自発呼吸をサポートしつつ、一定時間呼吸しないと補助呼吸が入るモードです。


設定するのはIPAP(吸気圧)、EPAP(呼気圧)と呼吸回数
呼気(息を吐く)時も軽く圧をかけるのは、気道を開いておくため。
特に寝ている時は筋肉の弛緩、舌根沈下等で気道が狭くなるので、必須です。4cmH2Oに設定することが多いです。
導入時のIPAPは個人差あり。8cmH2Oですんなり導入できる方もいれば、マスクが密着していることの圧迫感やブワッと風が入ってくることの不快感、等で抵抗が大きい方は、許容できる範囲内で。
最初はEPAPと同じく4cmH2Oにして、とにかく装着に慣れていただく方もいます。

装着時間を伸ばす

療養環境や運動症状によって
・ご自分で時々装着する
・ご家族に頼んで時々装着する
・一人暮らし、ないしご家族の協力が難しい方は、看護師さんにお願いして当面毎日訪問して装着の練習をする
等々。
着けていると楽、と感じてすんなり導入できる方もいれば、中々慣れない方もいらっしゃいます。
後者の場合は、焦らずほんの短時間でも装着する時間を持ちながら、少しずつIPAP(吸気圧)を上げていく。
慣れるまで時間がかかるかもしれないことを考えると、なるべく早く練習を始めることをお勧めします。

早期導入群(%FVC65%以上)の方が予後が良いという報告もあります。

最初のゴールは着けて寝ること

日中1-2時間装着できる様になったら、着けて寝るのにチャレンジ。
就寝中は呼吸が浅くなるし、寝ている間に呼吸筋を休ませ呼吸状態を改善するのが合理的。
どうしても眠れない方は、軽い睡眠薬か抗不安剤を使ってもいい。
筋弛緩作用で呼吸が浅くなる!、と心配されるかもしれませんが、バイパップを着けてぐっすり眠れる方がベターです。
ここまで来たら、あとは症状進行に応じてIPAPを上げたり、日中も時々装着したり、と調整をしていくことになります。

バイパップの限界と役割

バイパップには限界があります。
IPAPを上げて換気量が増えるのは、22~23cmH2Oくらいまで。それ以上は圧を上げても効果はありません。
ここはバイパップのデメリットであるとともに、メリットでもあります。
教科書的には、

  • %FVC 50%以下
  • NPPV1日のうち12時間以上装着

になったらTPPV(Tracheostomy Positive Pressure Ventilation(気管切開下陽圧換気:通称「呼吸器」)の適応です。

呼吸器を着けて生き続けるか、バイパップまでで人生を終えるのか。
生きるか死ぬかの、非常に難しい、大きな選択です。
バイパップはある意味時間稼ぎ。
気管切開後の生活はどうなるのか?
自分はその生き方を望むのか否か?
気管切開しない場合、最期はどうなるのか? 呼吸苦で苦しまない様にしてもらえるのか?
等々、悩みは尽きません。

患者さんにとっても主治医にとっても、いちばんつらい時期ですが、一緒に考えて意思決定していきます。
「呼吸器を着けて生活するって、どんな感じなのか、イメージが湧かない」と仰る患者さん・ご家族には、実際に呼吸器を着けて自宅療養されている方のお宅を見学して、ご本人・ご家族のお話を伺う、ということもしています。

私の患者さんの「前向き2大巨頭」のお二人。
見学・相談 大歓迎なので、私の患者さん、何人かお世話になっています。
ご参考までにどうぞ。

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もちろん死生観、人生観は人それぞれ。
「バイパップまで」と決めて、お気持ちが揺るがない方もいらっしゃいます。
その気持ちが本当なら、「息苦しさに苦しんで死ぬ」ことにならないよう、全力で支えますのでご安心ください。

呼吸筋麻痺以外の導入理由

ヒガシ氏は、呼吸筋麻痺より、舌根沈下による睡眠時無呼吸が深刻でした。
覚醒中は息苦しさを自覚せず、SpO2は99%(=優秀)でも、寝ると気道が閉塞してしてしまう。
それをチェックするために、時々睡眠時ポリグラフィーを行います。
これについてはヒガシ氏のブログを読んでくださいね。

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