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🌸呼吸器をつける決断をしたALS患者さんが、声を失う前に語ってくれました🌸

🌸呼吸器をつける決断をしたALS患者さんが、声を失う前に語ってくれました🌸



さくらクリニック練馬 院長の佐藤です。
今日は私が主治医を勤めている 田中聡さんという患者さんの動画をご紹介したいと思います。
彼の病気はALS。
発症1年後(51歳)からNPPV(非侵襲式呼吸器 いわゆるバイパップ)を装着しはじめ、その2年後(53歳)から当院で訪問診療にあたっています。
初診当初から「将来的に気管切開・人工呼吸器を希望する」と明言されていて、昨年8月 55歳で気管切開して呼吸器を装着。
その後、24時間呼吸器をつけて 自宅で暮らしてらっしゃいます。
今回上げさせていただく動画は、気管切開する1年ほど前に撮影されたものです。

この頃はバイパップを着けて何とか喋れましたが、滑舌が悪く聞き取りにくくなってきており、息切れも目立ってきていました。
そこで彼は、将来自分が喋れなくなってから関わってくださる方々に向けて、自分の気持ちや考えを伝えようと、この動画を撮ったわけです。
ちなみにインタビュアーは奥様、字幕は娘さんです。

ではこちらからご覧ください。

いかがだったでしょうか?
一応文字起こしをしておきますね。

こんにちは 田中聡です。
この動画は 将来私が全く喋れなくなった後に
新しく私のケアに入っていただく方に
私のことを理解してほしくて作っています。
今日は2022年8月28日
今私は54歳です。
ここ数か月、舌の動きが日に日に悪くなっています。
喋った後の息切れも激しくなってきました。
でも張り切ってお話したいと思います。

Q:現在の症状について教えてください
A:両手両足は自分の意思では全く動かせません。
体幹も首もグニャグニャです。
最近は舌の動きが悪くなり 喋っても相手に伝わらないことが 本当に多くなりました。

Q:コミュニケーションはどのようにしていますか?
A:メールやLINEはトビーのアイトラッカーとミヤスクを搭載したPCを 視線と左足爪先につけたスイッチで操作して文を作ります。
透明文字盤も使い始めています。
文字盤を使わないエアフリック式も併用しています。

Q:将来、気管切開をするつもりですか?
A: はい。時期は未定ですが、今使っているバイパップとの相性がいいので できるだけ長くバイパップで粘りたいと思っています。

Q:気管切開をしない患者さんも多いと聞きますが、気管切開すると即答したのはなぜですか?
A:たとえ体が動かせなくなっても、たとえTLS状態になっても、生き続けることに意味があると思うからです。
妻も三人の娘たちも、二人の妹たちも、義理の母も義理の弟も 叔父叔母も、 それを望んでくれていると思うからです。

Q:これまでに死を意識したことはありますか?
A:1年ほど前、排便時にピローマスクが鼻からずれてしまい、妻がちょうど宅配便対応のため玄関に行ってしまっていたため、異常に気づいてもらえず、窒息しかけた時です。
あの時は本当に死ぬと思いました。
このアクシデントを教訓に排便時はネーザルマスクに付け替えることにしました。

Q:身体のケアで体を触れられることに抵抗はありますか?
A:全くありません。マッサージが大好きです。入浴時は脇の下や陰部などは入念に洗っていただけると ありがたいです。

Q:支援者が気づきやアドバイス、新しい試みをすることを歓迎しますか?
A:大歓迎です。試行錯誤を繰り返しながらよりよいやり方を一緒に作り上げたいと思っています。

Q:これはして欲しくない、ということはありますか? 逆にこれは入念にお願いしたいということは ありますか?
A:してほしくないことは 特にありません。
控縮予防のストレッチや歯磨きの大切さを強く感じていますので、丁寧にやっていただけると嬉しいです。

Q:今のケア体制に満足ですか?
A:とても満足です。
妻は「ヘルパーさんがいない家族だけの時間も大事にしたい、完全他人介護を目指すのではなく、自分もできる範囲で世話をしてあげたい」という考えを持ってくれているので、妻とよく相談しながらヘルパーさんに入っていただく時間を決めていこうと思います。

Q:ALSを発症してからの4年弱を振り返ってどのような思いですか?
A:良い訪問クリニック、訪問看護ステーション、ヘルパー事業所に巡り合えたことが本当にラッキーでした。
お陰で日々とても安心して穏やかな気持ちで過ごせています。
この病気のせいで失ったものは多いですが、一方で 病気に罹り障害者になったことで 今まで気づかなかった沢山のことに気づくことができました。
不治の病気に罹っている私が言うのも変ですが、今私はとても元気です。

Q:今後の目標はありますか?
A:コロナでしばらく会えていない友達や親族に沢山会いたいですね。
きれいな景色を見に外出もしたいです。
私と同じ病気で悩んでいらっしゃる当事者やご家族のお役に立つようなボランディア活動をしてみたいと思います。

延命治療 するかしないか?

ALSの患者さんのうち、気管切開して人工呼吸器をつける患者さんの割合は、日本では2~3割と言われています。
私が担当しているALSの患者さんで、NPPV(非侵襲式呼吸器 通称バイパップ)も着けない方はごく稀。主に高齢の方です。
NPPVでの呼吸サポートには限界があります。NPPVで終わるのか? 気管切開+人工呼吸器(TPPV)で更に延命を図るのか?
これは、この病気の最大の悩みどころです。

田中さんが気管切開+人工呼吸器を選択した理由は二つ。

  1. たとえ体が動かせなくなっても、たとえTLS状態(totally locked-in state=意思疎通が不可能な状態)になっても、生き続けることに意味があると思うから。
  2. 家族と親族が、 それを望んでくれているから。

延命治療をどうするか、悩むポイントは、どなたもだいたい同じ。

  • 自分の人生観・価値観
  • 家族への負担

です。

その選択を背負って生きていくのは自分

私は、「呼吸器をつけて延命することが正しい選択だ」と言いたいわけではありません。

少しずつ運動機能が失われていく絶望、自分の気持ちが中々伝えられない辛さ、この先いったいどうなるんだろう、という不安、家族に迷惑をかけているという自責の念、等と付き合って生きていかなければならないわけですから。

田中さんだって悩んだはずです。でも「どのような状態になっても 生き続けることに意味がある」という信念と、大事な家族たちが生きることを望んでくれたから、彼は踏み出せたのだと思います。

私は、延命治療に関しては 中立的な第三者でいようと心がけています。
それぞれの選択肢のメリットやデメリット、喪失した機能を代替するためにこんな道具がある、こんな制度を利用できる、うちの患者さん達はこんな風に暮らしている、という情報を提供し、決断のお手伝いをする。
医師の価値観でその人の人生を決めてしまってはいけない。
その選択を背負って生きていくのは本人なのだから、自分で考え、自分で決めてほしい。そうするべきだと思っています。

とは言え、心の底には「生きることを諦めないでほしい」という祈るような思いがあります。そういう気持ちが滲み出てしまうのか💦、私の患者さんは7-8割の方が気管切開+人工呼吸器での療養生活を選択されます。日本の統計の逆です。
なのでやっぱり、責任重大なのです。

失い続けるだけじゃない

田中さんは、「私と同じ病気で悩んでいらっしゃる当事者やご家族のお役に立つようなボランディア活動をしてみたい」と語っておられました。

実は先日 とある患者さん(急変して人工呼吸器をつけて入院中)の奥様から、「この状態で自宅で暮らしていけるのか、見当もつかない。皆さんどうしているのか?」とご相談を受け、さっそく田中さんに相談したところ、お宅訪問を快諾してくださいました。

田中さんはコミュニケーションに時間がかかるので、予めその奥様に質問をmailで送ってもらい、Q&A形式のレポートを作って渡してくれました。そして この動画を見せてくれたのです。

久しぶりに聞く田中さんの声。どのような過酷な状況になっても、生きていることに意味があるという信念。
私は ちょっと意地悪な質問をしてしまいました。「今でも この気持ちは変わりませんか?」
するとすぐに「はい。全く変わりはありません。」という力強い返事が返ってきたのでした。

彼は鋼の心臓の持ち主、と思われる方もいらっしゃると思うんですが、そうでもないんです。なかなか繊細、意地悪な言い方をすると、ビビリだったりするんですよ。

呼吸器がついたら不死身になるわけではなく、大小のトラブルが起きるし(命に直結することもあります)、合併症との戦いもあります。

でも田中さんは「失ったものは多いですが、今まで気づかなかった沢山のことに気づくことができました。」ととらえ、今もその気持ちは変わらないと仰います。

日々、彼を支援するコワーカーの方たちとの触れ合いを楽しむ、大好きなサッカーの試合をTVで観る、散歩に出かける、時には遠出をする。その体験のひとつひとつに 田中さんは「幸福」を感じておられるのだと思います。

☟桜を愛で、紅葉を愛でる

 

 

 

 

☟ご夫婦で国立競技場へ

 

 

 

 

 

Enjoy! ALS

私が「ポジティブ大王」と名付けている梶浦智嗣さんの価値観も、田中さんに近いです。

彼はNsPaceという看護師さん向けのサイトに「enjoy! ALS」というブログを連載していました。2年間にわたり計24回。
もう完結しているので、興味のある方はぜひ読んでみてください。患者さんにとってもご家族にとっても、在宅療養を支えるコワーカーの皆さんにとっても、勉強になる情報が満載です。
その最終回に 彼はこう書いています。

たとえどんな病気であろうとも、その人の価値や尊厳を奪うことはできない!
全部ひっくるめて、一度きりの自分の人生なのだから、思う存分味わいつくそう!
Enjoy ALS!!

https://www.ns-pace.com/article/category/column/enjoy-als-24/

病気だけではなく、災害、戦争、暴力、その他諸々の不条理な苦しみ。いかなるものも、人の価値と尊厳を奪うことはできない。奪ってはいけない。
人間性の根幹を試される最前線に彼らはいると感じます
なので私は、そばでずっと彼らの傍らにいて 応援するっきゃないのです。

 






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