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🌸決まったぁぁ! 必殺バイパップゥゥゥッ!🌸

🌸決まったぁぁ! 必殺バイパップゥゥゥッ!🌸



さくらクリニック練馬 院長の佐藤です。
久々の山村ヒガシ氏のエッセイです。久々なのは、私が預かりっぱなしにしていたせいです。毎度のことでスイマセン。
バイパップなんて何のことやらわからない、という方のために、ひとまず昔書いたブログをご紹介します。
🌸自宅で出来る呼吸障害の治療方法🌸

盛り込みすぎてわかりにくいですね、我ながら。
後日もう少しわかりやすく解説しましょう。
ではまず、ヒガシ氏の体験談をどうぞ。

夜中に息苦しくなる

就寝中、何となく呼吸がしにくくなったのは、コロナが流行り始めるより少し前の頃だった。
ゴロゴロゴロゴロと何かが引っかかってる気がする。朝起きると口の中がカピカピに乾いてるんだよね。多分口を開けて寝てると思うんだけど。
「ついに私も気管切開をする時が来てしまったのか……」
私はマジで悩んだ。でも不思議だった。だって起きてる時は普通に呼吸できるんだから。

1年に一回ぐらいの割合で就寝中のサチュレーション(酸素飽和度)と、呼吸数を測定しているのだが、久々にその機会が訪れた。

主治医注:簡易式睡眠時ポリグラフィーのことです
参考ブログ:自宅でできる検査⑦ 簡易式睡眠時ポリグラフィー

結果としては、どうやら呼吸数が極端に少ない時間帯が何度かあるらしい。端的に言えば呼吸をしてない時があるということ。
しかもその時間帯に限ってサチュレーションがめちゃくちゃ落ちてるみたい。主治医が言うには睡眠時無呼吸症候群だって。

私が? 私が睡眠時無呼吸症候群? まさか、そんなわけねーじゃん。
そう思っていたところに「いびきはかく?」って主治医。するとヘルパーさんがすかさず「かきます」と。
「案外大きな音でかいてることが結構あります」
えっ、そうなの? 初めて知ったよ。超ショック。

血液ガス分析

「じゃあ次回は血ガスで二酸化炭素を見よう」
当院で使ってるのは、これです☟
参考ブログ:自宅でできる検査① 動脈血ガス分析

血ガス(血液ガス分析)とは、血液中に含まれる酸素や二酸化炭素の量測定する検査で、二酸化炭素が溜まっていると良くないらしい。ALSが進行して呼吸が弱くなると、二酸化炭素が上手く吐き出せないそうだ。

検査結果を見て主治医は言った。「う~ん、あまり良ろしくない。二酸化炭素がちょっと高いねぇ」
ええっ、じゃあどうすんのよ先生。
気管切開はまだ全然早いから、バイパップかな」

私は「バイパップ? なんじゃそりゃ」と、心の中でつぶやいてしまった。なんだかプロレスの必殺技みたいな名前だな。「決まったぁぁ! 必殺バイパップゥゥゥッ!」って。

主治医の簡単な説明だと、バイパップは人工呼吸器の部類になるという。呼気と吸気で空気の圧を変化させ、強制換気を行う装置ということだ。

へぇ~、そんなので睡眠時無呼吸症候群が治るんかねぇ。まあやってみないと分からないか。ああ、めんどくせーなぁ。

ようこそバイパップ

バイパップがやって来た。
マスクと鼻に着けるタイプがあって、私はマスクを選んだ。
とりあえず慣れるために週2回の訪看の時間にマスクを着けることにした。

「どうですか? 苦しいとかありますか? 大丈夫ならこのまま30分ぐらいね」
初めてマスクを着けてみた。ほおほお、普通に息ができる。意外と心地良い。そして30分が経過し、看護師がマスクを外した瞬間、それは起こった。

「く、くうきが……おもたい……」

まるで富士山の山頂にいるかのようだ。登ったことないから知らんけど。とにかくそのくらい酸素が薄く感じられ、一生懸命スーハースーハーしないと呼吸できないのだ。こんなことってあるの?
「でも……だんだん……だんだん……ふつうに……あ、よかった」
マスクを外してから20秒ほど経つと、ようやく呼吸が正常に戻った。それよりもマスクをしてる時に心地良いってことは、おそらくそれだけ私の呼吸が弱くなってるし、体が普段の呼吸以上の空気を欲してるんだと思うな。

あ~あ、ゆっくりでもやっぱり進行してるんだなぁ。こんな風にケアが大きく変わると実感してしまうよね。

喉が痛いっ

東京オリンピックが中止になった年の梅雨頃から、バイパップの時間を徐々に長くして行った。だが8月に異変異変!

痒いというか、痛いというか……とにかく変だった。それからだんだんと痛みが増して行き、11月には食べ物を飲み込むと、我慢できないくらいの激痛が! しかも日中の起きてる時間でも、気道が狭くなってるのか、呼吸がしにくい! くそっ! もうわけわからん!

心の声が
「コロナ? これってコロナ?
主治医が『呼吸疾患がある人はコロナは絶対ダメ!』って言ってた。喉が痛いってことは……いやあああああっ! こんなことで気管切開になっちまうのかぁ。それって、それって、マジで悔しすぎるじゃねーか……」
と言ってる。

それは取り越し苦労で、コロナじゃなかった。風邪でもなかった。
でも痛みが消えない。痛くてバイパップを着けられない!!

原因不明

主治医が「一度専門の所で診てもらった方がいいかもしれない」と言い出し、12月中旬、私は某大病院を受診した。
「回復傾向にあるし、もう行かなくていいんじゃねーの」とも思ったが、主治医が「何があるか分からないから一応行ってぇ」って言うから行ったさ、面倒くさかったけど。そして受診結果は……よく分からなかった。

「もう少し詳しく検査してみないと分からないですねぇ。次回はいつにします?」
ええっ、まだ検査やんの? 絶対意味ない。どうせまた分からないよ。とはいえ、先生としては何かしらの診断を出さないといけないんだろうから、とりあえず年明け早々に予約をした。そして受診結果は……よく分からなかった。この時、すでに痛みは消えていた。

喉頭分離術のススメ??

「原因は分からないですけど、痛みが消えて良かったです。一応定期的に診て行きましょう」
ええっ、マジで? ちょっともう勘弁してよ! 痛くないし終了じゃねーの。
「それから、もし喉頭分離術をするならウチはいつでもできますので……」

ちょっと先生、軽々しくそういう発言していいの? ALS患者にとって気管切開は生きるか死ぬかの決断なのに、「もしMRIをするならウチはいつでも……」みたいな言い方しやがって。
ALSとMRIを勘違いしてんじゃねーの。まあその時が来りゃやるけどさ。
でも病院側の事情もあるんだろう。きっと気管切開の症例を増やして病院の実績にしたいに違いない。仕方ない、予約してやるか。必要なかったらキャンセルすればいい。

「ちょっとぉ、治ってホッとしたよ。原因はよく分からなかったけど、とりあえず一件落着だね。はぁ~、これでバイパップが続けられる。良かったぁ~」
次の往診でこう言ったのは主治医だ。なんとも楽天的である。こりゃ大物だ。それと主治医はこうも言った。
「でも某大病院は喉頭分離術をやってくれることが分かったよ。やってくれる病院は限られるからね。」

なるほど、そういう見解もあるか。そうか、大きな病院ならどこでもやってくれるって思ってたけど、なんだか大人の事情があるのね。
さあ、とりあえずこれでバイパップを使って素敵ライフを送って行けるはず……なの?

バイパップ仲間?

少し前にバイパップのメーカーさんが定期点検に来た時、「実は僕もこれ使ってるんです」と言っていた。一般の人でも睡眠時無呼吸症候群があると知って、なんだかホッとしてしまったな。この人もいびきがすごいんだろうか。

いびきと言えば昔の役者仲間の彼。何人かで宅飲みしていた時、彼は酔いつぶれていち早く寝てしまった。するとけたたましく唸るようないびきをかき始めた。
こっちの会話の声を打ち消すいびき。隣の部屋に聞こえるようないびき。「こんないびきが存在するのか」と思った。思い返せば彼も睡眠時無呼吸症候群だったかもしれないな。

彼はいつも酒に溺れていたなぁ。どこで何をしているだろう。元気にしてるかなぁ……てゆーかアルコール依存症?

主治医コメント

ALSで通称バイパップ(正確にはNIPPV 非侵襲式呼吸器)を使うのは、呼吸筋麻痺が進行し、息苦しくなった時、というイメージが強いと思いますが、ヒガシ氏の場合は少し事情が違います。
球麻痺(食べたり話したり、の機能の障害)が出てくると、舌根沈下による気道の狭窄から睡眠時無呼吸をきたすリスクが出てきます。
なので、
・夜は熟睡てきているか?
・夜中に息が止まったり大きな鼾をかいたりしていないか?
等をチェックして、怪しそうなら睡眠時ポリグラフィーで評価し、適応があればバイパップ開始、となります。
ヒガシ氏は後者のタイプでした。

導入は順調だったのですが、原因不明の咽頭痛が続き、バイパップを着けられなくなった頃は マジで焦りました。

熟睡すると気道が閉塞してしまう。呼吸筋麻痺もそれなりに進行しているので、最悪命の危険がある。となると、救命のために気管切開が必要です。

ヒガシ氏は元々「必要な医療処置は全部やる」主義だったのですが、気管切開することでライフスタイルや支援体制がガラっと変わってしまいます。
大学病院の耳鼻科で診てもらっても原因不明と言われるし、どうしよう?と思って悩んでいた(本人は問題意識が薄く、ヘラヘラしていた!!)ら、何となく自然に治ってしまいました。何だったの?

ヒガシ氏にはこうしたよくわからない症状が時々出現します。
何はともあれ、それからしばらくの間は、夜だけバイパップを着けて過ごす平和な日々が続いたのでした。

さて、バイパップって言われても、「なにそれ?」と思われる方が大半ですよね。
ALS(に限らず、呼吸障害と睡眠時無呼吸)の患者さんの呼吸状態を支えてくれる 頼もしいグッズ(医療機器)です。
これについては、長くなるので次のブログで解説させていただきますね。

 

 






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