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🌸気管切開物語2:呼吸器 外せるんじゃないですか?🌸

🌸気管切開物語2:呼吸器 外せるんじゃないですか?🌸



さくらクリニック練馬 院長の佐藤です。
そろそろ恒例の山村ヒガシ氏の闘病記シリーズ。
今回は、ひと言でいうと「ALSで気管切開・呼吸器管理になって、最初はダメかと思ったけど けっこう外せちゃった話」です。
ただしよい子の皆さんは、主治医に相談せずにやったら絶対ダメですよ!
詳しくは本文で。

勝手に(!)離脱チャレンジ

「……30秒……1分……1分30秒……全然苦しくないんですか?」

ああ、これはファンタジーか……私は「苦しいけど苦しくない」と文字盤で伝えた。
まあ、肺の膨らみは感じられるから、自発呼吸してるのは間違いない。

「ヤバぁ、ちょっとすごくないですか。なんかドキドキして来た。今……2分30秒……あ、誰か来た」

チャイムが鳴った。多分リハビリのスタッフだな。私は「3分までやる」と言ったら、スタッフが「どーも、こんちは」と部屋に入って来た。
「今、回路を3分外してたんです。サチュレーション(酸素飽和度)もずっと98~99で。
「えっ、外せたんですか? 外せないって聞いてたけど……」

私がやっていたことは何か。なんと呼吸器を外す行為、「離脱」だ。
もし外せれば、呼吸器の長い回路を気にしなくていいので、ヘルパーさんのケアがとても楽になる。

気管切開をして呼吸器を装着した私だが、術前は薄いながらも普通に呼吸をしていた。
そもそも唾液の垂れ込みがなかったら、バイパップを併用しながら気管切開はもっと遅い時期になっていたと思う。おそらく2~3年は後になっていたんじゃないかな。

手術した病院の先生も往診の主治医も、「呼吸器の楽さに慣れてしまってるから離脱は難しいだろう」と言っている中、退院から3カ月ちょっと経った頃、何年も入っていて私をよく知るヘルパーさんが、日々のケアで感じたことを言った。
「呼吸器、外せるんじゃないですか?」

そのヘルパーさんは、ALS患者にとって夢の生活の可能性をちらつかせ、私をそそのかしたのだ。そしてまんまとヘルパーさんの口車にのってしまった私は「外してみる」と言っちゃった、主治医の許可を得ずに。

ヒガシ氏の相棒☟

けっこう外せるじゃないですか

翌朝、同じヘルパーさんに「もう一度外したい」と言ってみた。再び外してみると、今度は10分外せた。もちろんサチュレーションも変わらず。

「全然びっくりしないです。3分外せるなら、30分とか1時間とか外せると思います。ホントに苦しい人は30秒外したら殺人事件ですよ」

どうしちゃったんだ私は、離脱が余裕だなんて……いや、余裕ではないか。苦しいんだけど、我慢してるって感じでもない。エベレストの山頂と比べてどっちが苦しいかなぁ。
で、「午後の往診で先生に言ってみましょうか」という話になった。

「外しちゃった」報告・そして・・・

「え、外したの?」
「先生すみませ~ん。だって外せると思ったんですよぉ」
ヘルパーさんが得意げに経緯を話した。

「素晴らしい! 10分も外せたなんて素晴らしい! はぁ~、呼吸器の設定の苦労は何だったんだろうね。
OK! カニューレ交換はパパッとやらないでゆっくりできるね。」

退院直後、主治医は離脱に向けて、呼吸器の圧を下げる方向で設定を変えていった。
いつの頃か「離脱は難しい」と判断したのか、呼吸が安定する水準で変えるのを止めた。私も離脱は無理って思ってたからね。

「今からカニューレ交換するよ。アタシあと30分ぐらいいるから、その間外してたら?」

カニューレ交換の間は呼吸器を外すことになるから、いつもはヘルパーさんに手伝ってもらいながら10~15秒ほどで終わらせる。
だが離脱できることがわかったとたん、「時間があるっていいねぇ~」とか言いながら、ちんたらやって……ちんたら? いやちんたらではない! 失礼! ゆっくりとやっていた。

主治医との話し合いで、リハビリや慣れたヘルパーさんの時に離脱の訓練をやっていくことになった。私は訓練なんて思ってないのだがね。もっと長く外せる実感はあるから。

そしてカニューレ交換が終わっても呼吸器は着けず、結局30分外したままだった。もちろんサチュレーションも変わらずに。
ほらね、余裕でしょ。

着けたり外したりの生活へ!

離脱できたからと言って呼吸器が必要なのは変わらないし、ずっと離脱してるわけにはいかない。どうあがいても私はALS患者なのだ。

ヘルパーさんがそそのかした通り、離脱は生活の幅が広がる。
でもさすがに観劇は難しいね。車椅子も大きくなったし、呼吸器や吸引器の音はうるさいし。「吸引は外に出たら?」って周りの人は言うけど、一度入場したら帰るまで絶対出たくない、元演劇人として。

「もう45分ですよね。サチュレーションが99なんですけど……呼吸器いらないんじゃないですかぁ。撤収しちゃえ~」

フフフッ。大河ドラマ『べらぼう』を観てる時に、別のヘルパーさんが冗談交じりに言ってたな。たしかにこのまま行けば、日中は離脱で呼吸器は夜だけになるかもしれない。もしそんな生活が送れたらとってもアメージング。

入浴も離脱しながらだから、入浴スタッフやヘルパーさんは、長い回路がないから非常に楽な思いをしている。
時間も短縮できてるし、余裕を持って入浴ケアーだ。

もっと色んなことができるんだろうけど、私は無理はしない。残念だけど呼吸器を着けた方が楽だから。ただ離脱の限界は知りたいとは思うけど。

呼吸器を外して悠々とTV鑑賞するヒガシ氏☟

あとね、主治医の許可なしで離脱して、事後報告なんてことは止めようね。まあ、私が「外してみる」って言っちゃったのが悪いんだけど……さ。

山村 ヒガシ

主治医コメント

とある往診日、なじみのヘルパーさんが、妙にオズオズと上目遣いで「セーンセーー」「あのー」「すいませーーん」と言うから、何をやらかしたのかと思ったら、「勝手に外しちゃったんですー」との報告でした。

「勝手なことを!」とチラッと思いましたが、それは1割くらい。正直言うと「しまった、やっぱり外せたんだ」と思いました。

ヒガシ氏は気管切開と喉頭分離術を一緒に受け、1か月強の入院を経て退院。自宅療養を再開しました。
ヒガシ氏も述べていましたが、彼は呼吸筋が弱くなったというより、舌根沈下による気道狭窄(仰向けだとほぼ閉塞)、唾液誤嚥による呼吸困難の方が強かったので、「気管切開してしまえば 呼吸器は寝る時に着ける程度でいけるんじゃないか?」と思い、彼にもそう伝えて手術に送り出したのです。

ところが、帰ってきたら呼吸器に完全に乗っちゃってる! これは誤算でした。
少しずつ設定を下げていったのですが、ダメそうだなぁ、と離脱をあきらめたのが退院1か月頃。
でも、ここで諦めてはいけなかった・・・。

入院中は、術後管理も含めて24時間呼吸器管理で過ごします。個人差はあると思いますが、呼吸機能が残存している患者さんでも、けっこう呼吸器に乗っかってしまい、自発呼吸を忘れてしまう。
でも退院して自宅での普段の生活を送るうち、「時々外せる」ようになるケースは結構あるのです。
ヒガシ氏の場合、それは退院1か月を過ぎてからのことだった、ということです。
主治医である私は、すっかりそのことを忘れていた・・・。ちょっと反省でした。
でも! でも!
やっぱり勝手に外すは絶対ダメです。

その後はどうかというと、最長数時間くらい外して過ごしています。
別に記録更新する必要はないので、外せそうな時、外したいタイミングで適当にやってもらっています。
寝る時は必ず装着すること、昼寝でも着けること。それ以外はお任せしています。
呼吸が辛くなったら呼吸器を着ければいいだけのことです。

こういう適当なことができるのが自宅療養の醍醐味。(入院中は許可してもらうのは難しいと思う)
そして、ヒガシ氏が命をあずけられるヘルパーさんたちが、彼を支えてくれているから なのです。

ちなみに!
ヒガシ氏は「ちんたらちんたらカニューレ交換」みたいな、失礼なことを書いていましたが、私がちんたらちんたらやっているのは、これです。

☟

私が何をしているか、写真でわかる方は、いないと思う。
ヒガシ氏は、なぜか気切孔に向かって体毛が生えているんです。
「吸引したら毛が混じってましたー」みたいな報告が多々あって、まずいと思い、カニューレを抜去したタイミングでチマチマ毛抜きで毛を抜いているんです。

他の患者さんも、気管切開してカニューレを装着していると、顎下のヒゲが剃れない、という地味ですが切実なご相談を受けることが結構あります。
チャンスはカニューレ交換の時。
カニューレを抜く→そのタイミングで顎下の髭を剃る(呼吸状態により時間は調整します)→カニューレを挿入する、で対応しています。
こういう工夫も在宅ならでは、です。






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