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「一人暮らし」と「ありがとう」

「一人暮らし」と「ありがとう」



~患者様よりご寄稿~

「一人暮らし」と「ありがとう」

阿部 和正 様

33歳のときALSに罹病して、もうすぐ5年が経つ。
発病してから1年後に確定診断を受けたのだが、そのすぐあとに家族性のALSであることも判明した。それがわかったのは、同じ時期に母もALSに罹患したからである。
家族内で同時期にALSを発症するのは、なかなか希有な事例だと思う。

現在、母は人工呼吸器を付け、ヘルパーさんに介助してもらいながら、父と福島で暮らしている。
ぼくは、確定診断を受けたあと一時的に実家へ帰って生活したが、再び東京に戻り一人暮らしを始めた。
ただ、ヘルパーさんが24時間介助に入ってくれているこの生活を、一人暮らしと呼んでいいのかは怪しい。
加えて、近所には姉家族と弟も住んでおり、何かあるとすぐ駆けつけてくれる。
なおさら一人暮らしとは称せない環境ではあるけれども、しかしこれがALS的「一人暮らし」なのだろう。

そんな「一人暮らし」も一年半が経過した。
室内での生活が安定しただけでなく、外出も定期的にできるようになり、「一人暮らし」は少しずつ軌道に乗ってきたと言える。
ここまで生活を安定できたのも、周囲の人に恵まれたからにほかならない。
ヘルパーさんたちはもちろん、今のぼくの生活に関わり、支えてくれている人たちみんなのおかげである。
そういう人たちのサポートを当たり前と思わず、感謝する心を忘れないようにしたい。

だからこそ心残りなのは、文字盤を使って話すようになってから、読み取ってもらう労力をつい考えてしまい、「ありがとう」を言わなくなったことだ。
その気持ちは笑顔に託すのだが、伝わっていると嬉しいがどうだろうか。
ALS 的「ありがとう」を伝える術は、まだまだ発展途上なのである。



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