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利用者ブログ【第2章 2- 食べるよ!(その2):訪問による嚥下評価】

利用者ブログ【第2章 2- 食べるよ!(その2):訪問による嚥下評価】

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食べるよ!(その2):訪問による嚥下評価

 

【なんとか食べる楽しみを】

リハ病院では「誤嚥」は改善されず、この先も口から食べるのは難しいとのお話をいただいていました。誤嚥は親の力でなんとかなるものではありませんが、在宅では現状維持がやっとなどといって諦めず「少しでもできることを増やしたい」とさくらクリニックに相談することとしました。

  • 相談事項

最初に医療相談員のKさんに、次のような相談をしました。
・訪問で来ていただける嚥下の専門医はいるか?
・訪問リハのSTさん(言語聴覚士)と連携し食べる練習を指導してもらえるか?

  • さくらクリニックからの提案

・さくらクリニックが必要な調整・支援を行う。
・嚥下指導の専門医は、訪問診療を実施している大学病院を探して相談する。
・訪問STに家での「食べる」リハビリや指導、評価を依頼する。
・嚥下の進み具合に合わせて必要な栄養、食材等の指導を管理栄養士に依頼する。

ダメダメの門前払いではなく、相談できることだけでも大きな前進です。回復期リハ病院でチャレンジができなかったので覚悟していましたが、少し希望が持てるかもしれないと嬉しく思いました。

ただ、在宅では人も設備も揃うリハ病院のようにワンストップで機能的な訓練を行うことはできませんが、逆に入院期間の限度があるわけではないので、患者や家族のペースで取り組むことが出来ます。

なお進捗管理など関係者間の情報共有は重要で、タイムリーなチャンスを逃さないよう複数の事業所、担当者の間ではメールや電話を使うしか無く、その調整役(司令塔)を医療相談員Kさんが担ってくださいました。

―さくらクリニックKさんからのコメントー

ご退院当時は入院先の検査結果により経口摂取は危険と申し送りいただいていました。ご両親様から「食べることが好きだったので叶えてあげたい、できれば声を出すことのチャレンジもお願いしたい。」とご相談を頂き、主治医と一緒に関わりのある大学病院の専門医(摂食嚥下リハビリテーション分野)のY先生にご連絡差し上げました。

 

【訪問での嚥下評価】

訪問での第1回目となる嚥下評価は退院から3週間目に行うことができました。

専門医のY先生が訪問診療を行うのは週1日とのことなので、とてもお忙しい時間を割いていただくことになります。早いタイミングで機会をいただけたことはKさんのご尽力のおかげであり、またY先生にもご関心を持っていただけたことで「第一歩」を迎えることができました。

自宅で評価を行う場合は、問診や患者の飲み込みの様子などの観察に加えて持ち運び可能な機器による画像評価の「嚥下内視鏡検査(VE)」です。このVE検査は鼻腔から内視鏡を挿入し、実際に口で食べたり飲んだりする様子や、口の中の残りもの(咽頭残留)の有無などを調べることができます。

【それまでの経緯を説明する】

初診当日はY先生とI先生、さらにお二人の助手という総勢4名がいらっしゃいました。また、同じ時間に合わせ、医療相談員Kさん、訪問STのSさんも同席してくださいました。

まずは、息子の状況(生まれてから今に至るまで)について説明します。

・先天性重度の複合障害がある。会話は成立しない。
・27歳の冬に発作による転倒で脳挫傷、救急搬送された。
・その手術の際、気管切開及び胃ろう造設を実施している。

・手術前
普通食を親と一緒に食べており、特別なことはしていなかった。
手指に先天性の奇形があり自分の手で食べるのは苦手
食事中にむせることはあるが自分で排出できており、誤嚥性肺炎になったことはない。

・手術後
脳を一部切除したが術前と比べ目立ったマヒは見られない。
入院中は上手く飲み込めない、恒常的に(唾液の)誤嚥が見られるとのことで禁食。
当時の主治医から誤嚥は脳挫傷の影響ではとの話があったが、先天性疾患により手術前も誤嚥していたかは検査したことが無いのでこの点は不明。

このような内容です。

なお、入院中にも嚥下評価を行うためVF検査が2回実施されました。何ヶ月も口から食べていないのでテストとは言えども親子共々「食べる喜び」への期待感がありましたが、実際の検査は食事環境とはほど遠く、レントゲンの検査室のようなところで出された食材も食べたいものとは大きく異なったようで、口に入れてはみたもののなかなか飲み込めず「一発不合格!」となりました。

→ 後でわかったのですが、検査用の食材はその日の病棟の昼食に出された小鉢(ほうれん草のお浸し)をミキサーにかけバリウム(造影剤)を混ぜたものでした。これを飲み込むのは普通の人でも難しそうで、やはり患者が好きな食材で実施していただければ結果は大きく違ったのではと思います。

【VE検査やってみよう!】

内視鏡によるVE検査は、VF検査と違って大がかりなレントゲン設備も不要で、またバリウムもつかわないので、患者は負担感無くリラックスして自宅で実施することができます。

一通りの話を終えたところで、助手の方が内視鏡の準備にかかりました。

検査機器のセッティングが完了、「よし! それでは、水を飲んでみようね」ということで、内視鏡を息子の鼻に近づけたところ…

【しっぱい!】

申し訳ないことに、そこにいた全員の期待を裏切り、息子は内視鏡の挿入を激しく拒絶!

なにやら怪しいものが襲ってくると思ったのか首を左右に激しく振り全力で抵抗する。

Y先生が「美味しいもの食べるためだよ~」という懸命に説得するも、1ミリも聞き入れません。

助手の方が息子の頭や手を押さえて内視鏡の挿入を試みますが、このままではみんなが危険と判断され中止となってしまいました。

【Y先生の講評】

残念ながらVE検査はできませんでしたが、Y先生から次のお話がありました。

「内視鏡検査ができないと、訪問での嚥下評価ができません。

しかし、息子さんは、思ったより回復の可能性があると感じます。

普通、半年以上も口で食べていない患者さんは嚥下能力が著しく低下し、唾液もうまく飲み込めなくなっています。

ところが息子さんは「ツバ、ごっくん!」ができていますし、促せばカラ嚥下(口の中がカラでも飲み込もうとする)も追加嚥下(なんどもごっくんさせる)もできそうです。おそらく入院中にSTさんがあきらめず「ごっくん」の訓練や声を出そうとする「口パク練習」を続けた成果だと思います。

回復できる可能性はまだあると思います。是非、当病院に来て嚥下造影検査(VF)を受けてください。

長い道のりになると思いますが、息子さんのペースでゆったりゴールを目指しましょう。」

【一歩前進するために】

訪問での嚥下評価という選択肢は消えました。通院できなければこれで終わりです。

息子は退院後ずっと家で療養しており外出したことがありません。体調は落ち着きつつあるものの、夏真っ盛りのこの時期(2019年8月)に、何時間もの外出ができるのか心配で、外出もチャレンジ、検査もチャレンジです。

それでもさくらクリニックに相談できなければこのチャンスは得られませんでした。他の患者さんで同じような例があるわけでもなく、一からの積み上げだったと思いますが、形だけで無く真摯に取り組んでいただけたこと深く感謝申し上げます。



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