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🌸嚥下障害と上手に付き合う~嚥下内視鏡の活用🌸

🌸嚥下障害と上手に付き合う~嚥下内視鏡の活用🌸



 

院長 佐藤です。
先日竹下が、嚥下内視鏡検査の様子を書いてくれました。
🍒在宅で嚥下評価ができる!🍒
検査の流れについては、そちらをご覧ください。
今日は、
・嚥下内視鏡で何がわかるのか?
・在宅でどのように活用しているのか?

をお伝えしたいと思います。

食べるという行為

「食べる」という行為は、人間らしく生き生きと生きていくための基本のキ、ですよね。

  1. 食べたい・食べようという意欲
  2. 食べ物を口に運ぶ
  3. 咀嚼する(モグモグ)
  4. 咽頭に送り込む
  5. 嚥下(ゴックン)して食道に送り込む

このプロセスのどこに問題があっても、食べることに支障が出ます。
例えば認知症や抑うつ状態では、が障害されて食事量が減ってしまうことがあります。
運動麻痺、その他の運動障害で、箸やフォークなどの食器を使えなければ、ができません。
それぞれ、いろんな工夫をして「楽しく」「安全に」食べる工夫をしていくことになります。

私たちが医療現場で「嚥下障害」と言う場合は、主に③・④・⑤をさしています。

●咀嚼する(モグモグ)

日本気管食道科学会のHPからお借りしました。

●咽頭に送り込む

日本気管食道科学会のHPからお借りしました。

それぞれのステージで何に問題があるのか?を評価するために、嚥下内視鏡はとても有用です。当院では訪問歯科の先生と連携して検査していただき、それを臨床に活用しています。

嚥下機能障害について、口や文章だけで説明するのはとても難しいのです。
百聞は一見に如かず。見ながら「ここがこうだから、こうした方がいい」とお伝えすると、みなさんすんなり納得してくださるので、対策を講じやすくなります。

嚥下内視鏡でわかること~S様の場合

S様の病気は多系統萎縮症という神経難病。最近訪問診療を開始しました。
この病気は嚥下障害はほぼ必発。
初診時に様子を伺ったところ、
・夫と同じ、普通の食事を摂っています。
・ムセることは滅多にないです。
食事に1時間半くらいかかるので、後半は疲れて残してしまいます。
ということでした。
楽しく語らいながら美味しいディナー、ならともかく、普段の食事で、一生懸命食べて1時間を超えるのは、明らかに異常です。

診察所見は、こうです。(若干専門用語あり)
・口輪筋は明らかに左が弱い。
・舌運動は拙劣で、特に左側に動きにくい。myoclonusと思われる不規則な動きが混入する。
・軟口蓋の挙上は良好。咽頭反射は鈍/鈍。
・空嚥下は1回目、2回目とも迅速だが、2回目は微弱で若干分裂あり。

この時点で、このように推測しました。
「口腔期(食塊形成と送り込み)に時間がかかるが、嚥下反射は良い。誤嚥のトラブルはなさそう。食形態を工夫すれば、もっと楽に、早く食べれるのでは?」

嚥下内視鏡をする目的は、
・問診と診察結果から推察したことを 検証する
主治医の力量が試されることになります💦
・適切な食形態について、実際に色々食べてもらって検討する
誤嚥はないのか? 誤嚥のリスクはないのか? を観察する
ことです。

特に3番目が大事。
注意しなければならないのは、誤嚥したら必ずむせ込む・咳をする、わけではないこと。
ふつうは食べ物や飲み物が気管に入ってしまったら(多くの方は経験したことがあると思いますが)、刺激されて激しく咳込むのですが、誤嚥しても全く自覚症状ない、というケースもあります。
これは嚥下内視鏡で見てみなければ わかりません。

S様の検査結果

S様の嚥下内視鏡の写真です。(動画をキャプチャー)

動画は、編集も説明も難しいので、そのうち!

  • 左右前後が逆に見えます。
  • 声帯の動きはとてもよいし、唾液や残渣は見えず、大変きれいです。
  • 「喉頭蓋谷」と「梨状窩」に残渣が溜まりやすいです。
  • 「声帯」の奥の暗いところが気管。食べたものや飲んだものがここに入れば誤嚥です。

嚥下内視鏡で 発声したり食べたりする様子を観察した結果、下記のことがわかりました。
(ここも専門用語が入るので、やや難しい文章でゴメンナサイ)

  • 舌奥の動きは不良。垂直方向の動きはあるが、左右は殆ど可動性なし。
  • 嚥下反射が遅い。
    水分摂取時は嚥下反射が起こる前に液体が喉頭部に達してしまう。
    しかし反射自体はきれいに出るし、声門の動きは良好なので、喉頭侵入はない。
  • チャーハン、焼きうどんは一口量が少ないにもかかわらず、咀嚼と送り込みに非常に時間がかかる。
  • ペースト食の方が格段に送り込みが良い。

検査結果を見て どうするか?

以上の結果を踏まえて、今後の方針を決めるわけですが、合理性と能率を考えたら、「ペースト食に変更してください」ということになるでしょう。
しかし、この病気は進行性で、今後 嚥下障害は更に悪化していきます。
それなら、多少時間はかかっても、ご主人お手製の美味しいお料理を いま食べておきたいよね?ということで、当面は下記の様な方針で様子を見ることにしました。
  • 食形態は現状のままで良い。
  • 固形物とペースト食ないし飲み物の交互嚥下を。
    • 固形物→ペーストか飲み物→固形物→・・・と交互に
  • 食事時間は1時間までを目安とする。
    • それ以上頑張っても疲れてしまい、食べることが苦痛になるし、疲れると誤嚥リスクが高くなる
  • カロリーと栄養素を補充するため、栄養補助食品を活用する。
    • 処方できるのは、ラコール、エンシュアリキッド、イノラス等。市販のものもたくさんある。
  • 訪問リハビリ(ST)で舌、顎関節、頸部のROM訓練をする。
  • 食前に嚥下体操をする。(STから指導済み)

あとは普段の様子をフォローして、必要ならまた嚥下内視鏡検査で評価して、プランを再検討していきます。
将来的に胃瘻を作るかどうか? についても、折を見て考えていかなければなりません。

嚥下障害との付き合い方


「食べること」が人生においてどれほど大事か
、は人それぞれですが、私の経験では、病気の人でも健康な人でも、「食べることをなるべく楽しみたい」という意欲の強い人の方が、生命力が強いように感じます。
神経難病のような珍しい病気でなくても、脳卒中で嚥下障害になることがあるし、老化に伴い多かれ少なかれ 嚥下障害は出てきます。

「好きなものを食べれないなら死んだ方がまし!! 肺炎になろうが窒息しようが、私は食べます!」
なんて宣戦布告する方もいれば、
「元々食べることにはあまり興味がないので、生きていくために必要なカロリーを摂れればそれでいいです。リスクを最小限にしたいです。」
と仰る方もいます。

無謀な戦いはお勧めしませんが、多少リスクをとったり手間をかけて工夫すれば、病態に応じて、それなりに「食べることを楽しむ」ことができます。
誤解されている方が結構多いのですが、胃瘻造設も 呼吸器装着も イコール絶飲食(=飲食禁止)ではありません。

入院中は諸事情により絶飲食を指示されていても、退院しておうちに帰ってきたら、主治医の先生に相談してみてくださいね。
今回ご紹介した 松田先生(おじまデンタルクリニック)のように、食べることを前向きに支援しよう考えてくださる訪問歯科の先生と連携出来たら、最強です。






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