🌸私の皮膚科の師匠をご紹介します② ~症例報告その2🌸
🌸私の皮膚科の師匠をご紹介します② ~症例報告その2🌸
2025年06月02日

さくらクリニック練馬 院長の佐藤です。
🌸私の皮膚科の師匠をご紹介します(コラム「Enjoy! ALS」連載再開記念)🌸
の続編です。
ここでは (梶浦さんのブログの「症例2」)を詳しくご紹介いたします。
症例2
77歳 男性(当時)
脳出血後遺症で寝たきりの方。前立腺肥大で尿閉をきたし、尿道カテーテルを留置されています。
外来で定期的に尿道カテーテルを交換してきましたが、通院が大変になってきた、とのことで訪問診療に移行されました。
77歳 男性(当時)
脳出血後遺症で寝たきりの方。前立腺肥大で尿閉をきたし、尿道カテーテルを留置されています。
外来で定期的に尿道カテーテルを交換してきましたが、通院が大変になってきた、とのことで訪問診療に移行されました。
急変
「下腹部が固くなってきて、おかしい」と連絡を受け 往診したところ、おへその下がが逆扇形に赤く盛り上がり、中央部が黒色壊死。触るとプヨプヨ。
穿刺したところ、ミルクチョコレート色の膿汁が200mlほど引けてきました。色はミルクチョコレートですが、凄まじい悪臭です。
初診当初から「何があっても病院には行かない」と、ご夫婦口をそろえて宣言されていました。
かつて入院した時に、譫妄状態になったりADLが一気に低下して動けなくなったり、と苦い経験をされて、ご家族で話し合って「もう入院はやめよう」となったそうです。
ほぼ寝たきりのご主人を長年献身的に介護されてきた奥様。この時はさすがに「もうダメだ」と死を覚悟されたそうです。
それでも「家にいたい。家でできる範囲で治療してほしい。それで命が縮まってもいい。」というお気持ちは変わりません。それは最優先しなければなりません。
診断
感染症であることは間違いないので、同日から抗生剤(セフトリアキソン)の点滴を開始しましたが、なぜ下腹部に大量に膿汁が溜まっているのか? 感染源はどこか? それすら不明では治療方針が立たないので、画像検査専門のクリニックに行って腹部・骨盤の造影CT検査を受けてきてもらいました。
結果は恥骨結合炎。恥骨結合が離開し、一部溶解し、液体(たぶんミルクチョコレート色の膿汁)が貯留しています。ここから下腹部に感染が波及して皮下膿瘍となったのでしょう。
治療方針
間もなく下腹部の黒色壊死部分が融解して皮下組織が露出し、かつ巨大な空洞(皮下ポケット)を形成。(*赤く囲った部分)
カンガルーのお腹状態です。
ポケットを形成しているとは言え、褥瘡のポケット切開の様に切るわけにはいかないと思う。そもそもこんなの診たことない! どうしたものか?
そこで梶浦さんに相談しました。
やはり外科的処置ではなく、保存的治療で良いようです。
ポケットの洗浄方法、外用剤(イソジンシュガー)の使い方など、細かいところまで教えを受け、訪看さんにに毎日訪問してもらい、創部の処置と抗生剤治療を続けました。
抗生剤の点滴は続けていましたが、プロカルシトニン(敗血症のマーカー)も上がっており、食事量も減って消耗感もひどく、予後はきびしいかと思われましたが、ご本人・奥様・土日も含めて毎日訪問して処置に当たってくれる看護師さん達の頑張りが天に通じたのか、2週間ほどの抗生剤投与で炎症徴候が陰性化!
抗生剤治療は終了です。
その後の経過
巨大ポケットは少しずつ縮小し、上半分は消失しましたが、下半分に半月状のポケットが残りました。
もっと積極的に治療しよう、ということで、フィブラストスプレーを追加。ポケットはどんどん浅くなり、一番深いところ(時計の短針で6時方向)でも3㎝大になりましたが、そこで膠着状態に。
フィブラストスプレーは創傷治癒にはとても良い薬ですが、中々のお値段です。効果が期待できないのに漫然と使用するべきではありません。
そこでまた梶浦さんにご相談したところ、下記のようなアドバイスを頂きました。
写真を拝見する限り潰瘍の辺縁が既に上皮化してるため、完全に癒着するのは難しいかと思われます。
また、ベースに慢性的な恥骨結合炎がありますので再燃した時のため、排膿できる瘻孔があった方がいいのかもしれません。
フィブラストスプレーは中止して頂き、イソジンシュガーの外用だけ継続してください。
なるほど!
ドレナージ用の穴だと思って大事にとっておけばいい訳だ。
ということで、フィブラストスプレーは中止しました。
近況
その後も何度か感染を繰り返しましたが、その都度抗生剤の点滴で持ち直し、寝たきりではありますが 元気に(元気すぎて奥様が困るくらい)自宅療養を続けておられます。
往診時は「元気だよー」「ジェントルマンだよー」と、可愛いあいさつで私を和ませてくれてます。
発症当初は痩せこけて骨と皮状態でしたが、今は皮膚にハリが戻り、お腹周りもポッテリしてきました。
下腹部のポケットは、徐々に奥の方まで上皮化。これではくっつきようがないですね。
奥様は「いざという時に排膿してくれる大事な穴よね」と仰って、毎日洗浄と消毒をしてくれています。
奥様からは、恥ずかしいくらい毎度毎度感謝の言葉をいただいています。
もちろん梶浦先生に対する感謝も込みです。