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利用者ブログ【第2章 3- お風呂入るよ:ベッド上での清拭から湯船へ】
利用者ブログ【第2章 3- お風呂入るよ:ベッド上での清拭から湯船へ】
2025年10月09日
3 お風呂入るよ:ベッド上での清拭から湯船へ
退院当時、食事とお風呂は大きな難題でした。在宅でどこまでできるのか不安を抱えながらも、支援チームのご支援により、回復・改善に向けたチャレンジを開始することができました。
【お風呂入るよ!】
回復期ではストレッチャーに仰臥位のまま週2回の機械浴でした。
介助者は3名(介護士2名、看護師1名)で、浴室に小型吸引機を持ち込む(専用の医療ガスアウトレットはなく、毎回持ち込んでました。)など大がかりでした。
退院前カンファレンスでは病棟での入浴方法が説明され、看護要約にも「(親が)毎日洗髪してあげたい希望あるため、臥床した状態での方法や気管カニューレ等に水が入らないような操作方法を指導したい。」という記述がありましたが、残念ながら退院までに実際の入浴の様子を知ることはできませんでした。
▽回復期リハビリ病院に入院中のお風呂の様子はこちら▽
利用者ブログ【第1章 1- リハビリ病院でやっていたこと】
利用者ブログ【第1章 1- リハビリ病院でやっていたこと】
【まずはベッド上で】
家の浴室は狭く介助者一人付き添うのがやっとで、シャワーチェアに安定して座れるか、発作は起こらないか、カニューレ保護は上手くできそうか、初対面の介助者(訪問看護師)に協力的かなど不明なことばかりです。
さすがにいきなりお風呂場でとはならず、当面はベッド上での清拭と洗髪を行うこととなりますが、看護師さんも短い訪問時間でたくさんのケアを行わなければならず、時間がかかる洗髪は週1程度で「あとは家族でお願いね」ということになりました。
理髪店でのシャンプーはとても気持ちがいいですが、息子はその経験は一度もありません。家のベッドで寝ながらのシャンプーなんて、親子のぎこちない時間が過ぎるだけです。お湯も少量、シャンプー剤も少量で要領よく洗髪を終えるのはかなりのコツが必要と思うのですが、そのことを看護師さんにお聞きしたら「そんなに難しくないし、この方が良く洗えますよ」との答えが返ってきました。息子は看護師さんに洗っていただいた日はとても満足顔でした。さすがです!
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【浴室でシャワー(胸から下)】
在宅開始からまだ6日目のこと、看護師さんから「体はシャワーできそうだね」と提案がありました。「訪問中の様子を見ていると、車いすやベッドでしっかり座位を維持できている。手始めにシャワーチェアに座って、気切にかからないよう、胸から下のシャワーなら問題なくできそう。」とのことでした。
洗髪は気管切開部の保護などまだ安全確実とはいえないので、体は浴室、頭は寝室の二つの作業に分かれましたが、次は「シャンプーも一緒に」という期待が膨らみました。
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【全身をシャワーで(シャンプー含む)】
それからまた数日後、今度は「シャンプーできるかも」と嬉しい提案です。カニューレはトラキマスクを装着し、上にケープ二重巻き、さらに首元にタオルを巻くという4重ガードで、頭からのシャンプーを含め全身シャワー浴を実現できました。この時は「座位の維持ができ、前屈み(洗髪しやすい前傾姿勢)になれる」ので気切部さえ気を付ければ大丈夫とのこと。
※カニューレがレティナ(閉鎖弁、鼻・口呼吸)になってからは、首回りはシャワーシールド1枚による保護としており、かなり負担が減りました。
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【そして湯船へ】
在宅開始から1か月経過した頃「湯船に入れると思うよ」との提案がありました。
最初は湯船に半分ぐらいのお湯でスタート、安全が十分に確認されてからお湯の量を7分目ぐらいまでに増やし、ごく普通の状態での入浴ができるようになりました。
「いい湯だな!」を満喫していた息子でしたが、まれに湯船の中でてんかん発作を起こすことがあります。カニューレが水没すると肺に直接お湯が入りますし、介助者が支えきれないかもしれません。
そこで、足を伸ばして湯船にゆったり浸る時間を短くし、体を横向きにする入り方で発作が起きても足や体がつかえて水没を免れる(絶対に回避できるということではないです。)ようにしました。看護師さんはその姿勢でもお風呂を楽しめるよう歌を歌ってくださったり、ラミネート写真を使った名前当てクイズをやってくれています。
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【訪問看護師さんのチカラ!】
回復期には5か月入院していたので、振り返ってみればそこで頑張れば半身シャワー浴はできたのではと思います。しかし、それは実現せず寝たままの機械浴での退院となりましたし、同じように家で「頭や体を洗う」のはとても大変だろうと感じていました。
しかし、訪問看護師さんは、退院から数回介入しただけで「この子(患者)ならできるよ」と、狭い浴室でも介助者一人で安心・安全にシャワーできる方法を考えてくださいました。当時は息子より少し年下(20代半ば)の看護師さん2人が日々交替で介入していました
そのうちお一人は「ICU」、もうお一人は「救命センター」という厳しい部署の出身で、在宅に転職してからの経験は2~3年だったそうです。病棟ならいつでも手伝ってくれる同僚や先輩が近くにいますが、在宅ではなんでも一人でこなすしかありません。気管切開患者さんを湯船に入れる機会はあまり無かったでしょうから、看護師さんにとっても大きなチャレンジだったと思います。
退院時に病院が作成した訪問看護指示書や特別訪問看護指示書には「入浴」に関する記述が無いので、実際どうするかはステーション任せだったのでしょうか。このお二人との出会いが無ければ、浴室での入浴を諦め、訪問入浴に進んだかもしれません。
ゆったり湯船に入り、看護師さんに支えられながら嬉しそうにお風呂から出てきた息子、お二人の優しい心と意識の高さ、行動力が我が家の支えになり、感動と感謝の気持ちで胸がいっぱいです。
残念ながらお二人とも次のステップを目指して退職され、短い期間のお付き合いとなってしまいましたが、本当にありがとうございました。
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【今はどうなの?】
奇跡の入浴以降、湯船に入るのも頭からのシャンプーも全く問題ありません。しかし、時々(父が入浴介助するときは6割ぐらいの確立で)てんかん発作が起きますし、若干足腰のふらつきがあるようにも見えます。
そこで、体を洗うときに立位の姿勢を取る必要があるときや、お風呂跨ぎでの転倒を避けるため、浴槽グリップの設置を設置し「自分で支える技術」をマスターさせるとともに、大腿四頭筋の強化を図るリハビリをしようと思っています。
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【さくらクリニック齋藤医師(主治医)からのコメント】
回復期リハビリテーションとは、急性期治療後、病状が安定した時期に、失われた身体機能の回復と日常生活動作(ADL)の再獲得を目指して集中的に行われるリハビリテーションです。リハビリの種類は大きく分けて、理学療法、作業療法、言語聴覚療法の3つに分類されます。
彼の場合には、回復期リハビリテーション病院に転院後、理学療法には力を注いで頂いたものの、原疾患由来の身体的障害に、知的障害の合併があること、入院経過中に誤嚥性肺炎を起こすなどの問題もあり、自宅療養に復することは難しいだろうと思われていました。そのため作業療法のなかの、「自宅での」排泄や入浴を想定した「在宅復帰支援」の部分が十分でない状況で退院となりました。
本来であれば、「家屋評価」を行ったうえで、入院中に、「退院後の生活」を見据え、食事、更衣、排泄、入浴方法を、看護師、PT、OT、STの各スタッフとご家族が、知恵を絞り、策を練った上で在宅復帰となるはずでしたが、残念ながらその部分は全部訪問のスタッフにゆだねられることとなりました。
主治医もリハビリの専門医ではないので、身体保清(洗髪・入浴)問題において、ご自宅の状況と患者さんの状態、潜在能力を踏まえての適切な指示が出せるわけではなく、もっぱら訪問看護師さんの診たてと知恵、経験に基づくチャレンジを、医学的に見守る(安全確認をする)形でサポートを続け、気づいたらしっかりご自宅のお風呂に入れるようになっていました。
ご家族の理解と熱意、協力があったからこそ、看護師さん、リハビリスタッフの方々もぞんぶんにその力を発揮できたのだと思いますが、まさに多職種連携の賜物だと皆さまに感謝しています。
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