enjoy! ALS

enjoy! ALS



さくらクリニック 練馬 院長の佐藤です。
私が主治医をつとめている梶浦智嗣さんが「NsPace」という看護師さん向けのサイトにコラム記事を寄せられました。
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「私はALSを発症して6年になる40歳の医師です」

「ALS」をネットをググるとネガティブな情報ばかりがあふれている・・。
自分はポジティブな情報を発信したい!と想い、このコラムを担当されたそうです。
ALSと診断されてお先真っ暗と落ち込んでいる方、ご家族の方、支援者の方々、前向きパワー全開の文章から勇気と元気がもらえますので、ぜひぜひご一読ください。

さて、読んでいただけたでしょうか?
では、私の感想を少し。

梶浦さんは30代でALSを発症されました。
現在は何をするにも介助が要ります。
自力では呼吸できないので24時間呼吸器を装着。
食事が摂れないので胃瘻から経管栄養。
眼を動かして私が「エア文字盤」と呼んでいる方法で意志を伝える他、口にスイッチを咥えてiPadを操作されます。いずれも健康な方の何倍~何十倍も時間と忍耐が要ります。

この状態で「日々充実して楽しく過ごしています」、「enjoy!」と言われても、戸惑う方が多いかもしれませんね。
でも彼は本当に楽しそうに、彼の日常を過ごしておられます。

私がとても感銘を受けたのは、以下の文章です。

多くの人は、「ALSは、いろいろなことができなくなっていく、つらくて残酷な病気」ととらえていますが、「わずかな動きと工夫しだいで、いろいろなことができる可能性に満ちた病気」です!

彼の人生観と生きざまが、よく表れていると思います。

■悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意志によるものである■

これは19世紀~20世紀に活動したフランスの哲学者アランの「幸福論」に記された言葉です。
かつて麻生太郎さんが総理を務められた時に、好きな言葉として紹介されていましたね。

悲観主義と言えば、仏教でいうところの「四苦八苦」。
四苦(4つの苦しみ)は生・老・病・死。
仏教は生きることの苦しみから解放されること(=解脱)を目指す宗教です。
生きること自体が苦行かどうかはさておき、「老・病・死」については、大抵の人は辛く苦しいと感じるでしょう。それは当然の気分です。
*気分:ある期間持続する 気持ちの状態を自分が評価したもの)

それに対して、自分と世界の価値や意義を肯定しようとする立場が「楽観主義」。それには意志力が要ります。
実際は、気分や心理状態と意志を明確に分けるのは難しいです。
人生がそこそこ上手くいっていて体調良好なら「楽観主義」が勝るでしょうし、逆なら「悲観主義」が勝るでしょう。

「難病中の難病」
と言われるALS.
からだは全く動かず、自力では呼吸もできない、食べれない、喋れない。意思を伝えるには物凄い時間と手間がかかる。
そんな状態の自分を肯定するには、並大抵でない意志力が要るでしょう。
でも、意志あるところに道は開けます。
からだの機能が少しずつ失われる。困った。じゃあ何か工夫できないものか。
そう考えて見渡してみれば、いろんな装置や制度を駆使して、関係者(私たちも含め)に知恵を出してもらいながら、自分らしく生活してゆく道が見えてきます。
具体的なことは、梶浦さんがこのコラム「enjoy! ALS」で随時ご報告くださることでしょう。更新されたら私からもお伝えしていきたいと思います。
どうぞお楽しみに。

■Enjoy■
「喜ぶ」と訳されることが多いですが、「享受する」という意味もあります。
享受する =受け入れて、味わい楽しむこと。
ALSに限らず、神経難病は少しずつ進行し、これまで出来ていたことが段々できなくなる病気です。
少しずつ喪失していく人生を、受け入れ、味わい楽しむこと。
それができれば人生は無敵ですが、誰でもできることではありません。
そんな、人間の可能性を試される最前線に彼らはいます。

Enjoy! ALS.

その先にあるのはRejoice!(祝福せよ)、=運命を受け入れた上で人生を味わい楽しみなさい、という力強い応援歌ではないだろうか。
梶浦さんの文章を読んで、つくづくそう感じた次第です。






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