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🍒聖地への冒険~山村ヒガシ氏 エッセイ第2弾🍒

🍒聖地への冒険~山村ヒガシ氏 エッセイ第2弾🍒



医療秘書の竹下です。
本日は以前紹介した[不便だけど不幸じゃない~ALS患者さんの生活の工夫]を書いて下さった山村ヒガシさんのエッセイ 第2弾を紹介します。
ALSを発症して間もなく、憧れの甲子園に旅行に行った時のお話です。

ムーンライトながら

ムーンライトながら……この名前が分かる人はちょっとした鉄道ファンかもしれない。
これは東海道本線 東京駅~大垣駅間で運行されている夜行快速列車だ。今は走ってるのかなぁ、コロナがあるからなぁ。【1】
私はムーンライトながらに一度だけ乗ったことがある。いや、往復だから二度か。

甲子園は、今も昔も憧れの聖地だ。
私が野球を本格的にやっていたのは小二から高三まで。
高校ではもちろん本気で甲子園を目指していたが、レギュラーにはなれず、
最後の夏は三塁ランナーコーチャーとしてベンチに入った。「まわれ! まわれ~!」って、
何度も何度も腕を回してたっけ。

第83回センバツ高校野球

3月下旬に第94回センバツ高校野球が行われ、大阪桐蔭高校が見事に4回目の優勝を飾っ
た。決勝戦を食い入るように観ていた私だが、そんな聖地へ一度だけ行ったことがある。
それは11年前の第83回センバツ高校野球、そう、東日本大震災直後のセンバツだ。

当時、ALS発症からすでに一年半が経過していた私は、手先の力が徐々に入らなくなって来て、文字がまともに書けないことに苛立ちを感じていた。
歩行もバランスが悪く、気をつけないと転倒するぐらい進行していた。
仕事は騙し騙しこなしてたのだが、震災の影響でしばらく休業となってしまった。
そこへ「土日が空いたから甲子園でも行かないか?」と誘ってくれたのは、小学校時代の学童クラブの先生だったK氏だ。
学童クラブって、何十年の付き合いだよ! って思う人もいるはず。そうなんだよ、長い付き合いなんだよ。
自由人なK氏はちょっと変わった人なのだ。てことは私も変わってるのか?
そういえば変わった学童クラブだったもんな、動物がいっぱいで。ヤギとか。

聖地・甲子園へ

金曜日の夜、私とK氏は日付が変わる前の東京駅にいた。
ここから強行スケジュールが始まったのだ。

土曜日の三試合を観て、一泊し、日曜日の三試合を観て、その日の夜行に乗って月曜日の早朝に東京到着という、当時の私にとってはとんでもないプランだ。でもちょっとわくわくだったな。
私達は青春18きっぷを使って東京~大垣行きのムーンライトながらに乗り、甲子園に向かって出発した。
大垣から、米原、大阪と電車を乗り継ぎ、阪神電車で梅田から甲子園に到着したのは土曜日の朝。

甲子園の記憶

「甲子園だぁ……」

目の前に現れた阪神甲子園球場はマジで輝いて見えたのを覚えている。まあ正直言うと、ツタに覆われていた頃【2】が見たかったんだけどね。

さて甲子園観戦だが、さすがに試合内容は覚えてない。
記憶にあるのは、甲子園の雰囲気に圧倒されたこと、寒くて雪がちらついてたこと、智弁和歌山の人文字の『C』が良かったこと、國学院久我山がサヨナラパスボールで負けたこと、それぐらいかな。

少し残念だったのは、東日本大震災の社会的考慮からブラスバンド(鳴り物入り応援)が禁止になったことだ。最近のコロナ禍での甲子園もそうだが、これがあるのとないのじゃえらい違いだ。それにブラスバンドの連中も、アルプスで演奏するために必死で練習して来てるんだから。

危険な甲子園

そしてだ、一般的な健常者の人には想像できないだろうけど、甲子園観戦は危険がいっぱい。
グラウンドに近い席に行くためにいくつもの段差を下りたり、試合を長時間観てるから足が固まって動かなかったり、売り子さんからおつりをもらう時に落としそうになったり、数えたらきりがないのだ。

最後の冒険

六試合を観戦した私達は早めに大垣へ移動した。そして東京行きのムーンライトながらの時間まで、甲子園談義に花を咲かせながら呑み屋で食事をしたのだ。
たしか焼き鳥の串がうまく持てなくて、K氏に肉を外してもらってフォークで食べたような……。あとは呑み過ぎないように、ビールを呑んでは水を飲み、ビールを呑んでは水を飲みを繰り返してたな。
「おう、大丈夫かぁ? 呑み過ぎてないかぁ? さて、これ呑んだら行こうか」
食事を済ませた私達は、再び青春18きっぷを使ってムーンライトながらに乗り込んだ。

今ならまだ遠出できるとかなと思って声をかけてくれたK氏には、感謝しかない。
K氏とは今もたまに会う。2~3年に一度ぐらいの割合で、アポなしでふらっと現れる。
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ALS患者は、自力歩行で行ける最後の旅行というのをだいたい予測できます。私はこの聖地への小旅行がそうなりました。
手足に症状が出てからの旅行は、ある意味「冒険」と言っていいかもしれません。
これから迎える人もすでに済ませた人も、素敵な冒険だったらいいですね。
今回はちょっとした昔話のご紹介でした。

山村ヒガシ

感想

とても引き込まれる文章でした。
特に、強行スケジュールの旅行の内容は読んでいてとてもわくわくしました。
今はなかなか出かけづらくなってしまっていますが、私も久々に旅行に行きたくなりました。(竹下)

脚注

1ムーンライトながら…2009年からは夜行列車から夏休みや冬休みを中心とした臨時列車となり、2021年3月29日には残念ながら廃止となっています。
2甲子園球場のツタ…改修工事の後、2009年に再植栽されています。2022年現在もまだ全部覆いつくすほどには至っていないようです。覆いつくすにはあと7年もの月日がかかるとのことです。






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