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🍒こころ踊らなくなって・・・~山村ヒガシ氏のエッセイ 第3弾~🍒

🍒こころ踊らなくなって・・・~山村ヒガシ氏のエッセイ 第3弾~🍒



さくらクリニック練馬 医療秘書の竹下です。
このブログでの山村ヒガシさんのエッセイも第3弾となりました。
今回は山村ヒガシさんが特に印象に残っている演劇の野外公演を観に行った時のお話です。

花園神社の野外公演

私 「靖国通りの歩道は相変わらずすごかった」
ヘ 「どうやったらあんなに人が溢れて来るんですかねぇ、車椅子の技術が求められますよ」
私 「虫よけ」
ヘ 「ハイハイ、じゃあ腕と首にスプレーしますね」
私 「帰りのタクシーは22時?」
へ 「ハイ、22時です。明治通り沿いだから、まだ来てなかったら鳥居の横にいましょうか」
私 「受付に」
へ 「ハイ、じゃあお金払って来るのでここで待っててください」

梅雨明けの7月下旬、私とヘルパーさんでこんな会話を毎年のようにする。
この場所は新宿花園神社、ここで行われるのは演劇、椿組(つばきぐみ)の花園神社野外劇公演があるのだ。

境内にどでかいテントを建てる特設ステージには約200人の客が入る。私は車椅子なので、ヘルパーさんと並んで最前列の端の方に陣取る。
客席の間隔があまりなく、ひな壇を上がる狭い階段にも客が座るなど、一般的な劇場より人口密度は高い。

公演は夜(19時開演)のみ。そりゃそうだ、昼は酷暑、干からびちまう。
それともうひとつ、昼は暗転が使えない。椿組は『四谷怪談』なんかもやったりするからね、暗闇にならない舞台はちょっと味気ない。

そして上演時間は2時間半を超える(休憩あり)。更に劇中のアドリブ次第では時間が延びる。だから帰りのタクシーは22時なのだ。
帰宅後、「ああ、夜勤さん来ちゃうよ」と言いながらテンパってるヘルパーさんの姿が目に浮かぶ。ヘルパーさん、ファイト!

椿組の前口上

衣装を着た役者が客入れ中に、「ビールいかがですか~!」「冷えたお茶ありますよ~!」「うちわありますよ~!」って大声で売り子さんやってる。ちょっと大衆演劇っぽい?

それから大地震などの緊急避難場所のことを、開演前に前口上で言うのだが……。

「……大きく揺れた時にどこへ避難したらいいのか!
皆様、ご安心ください! 皆様は、すでに、避難されておりま~す!

爆笑と拍手喝さい。
そうなのだ、花園神社は緊急避難場所になっているのだ。
大事なことなのだが、ユーモアを交えて面白おかしく伝えてくれる。
私はこの前口上が好きだ。

好きな舞台

椿組の花園神社公演は、野外劇らしくエネルギーたっぷりで、泥臭くて感情むき出し、自由で手作り感が満載だ。
まるで大規模な学芸会を大人が真剣にやってる感じ。
圧巻はクライマックス。
舞台中央のセットがなくなって(崩れたり倒れたり)、人や車が行き交う新宿の街中が見えることだ。この演出は面白い。

ALSを発症して以来、私は波乱のない普通の生活を送って行くことだけを考えている。この羨ましく懐かしい感覚。いいよね。

上記は特に印象に残ってる舞台なのだが、私は月に4本ほど、年に50本ほどの舞台を観る。
そう、観劇は私のライフワークだ。ちゃんと観劇に行けてることが体調のバロメーターにもなっている。

よく観に行く劇場としては、紀伊國屋ホール、本多劇場、新国立劇場(小ホール)、東京芸術劇場(シアターイースト・ウエスト)、シアタートラム、座・高円寺、吉祥寺シアター……この辺りかな。バリアフリーでキャパはだいたい200~500、それより大きい劇場になると、役者の表情や細かい芝居が見えないから臨場感が薄れる。

心が踊る演劇

私は演劇を観ていると心が踊る。映画でなくドラマでなくやっぱり舞台だ。
元々演劇人だった私はやる側の面白さも知っている。
「私ならこうするな」「そっちもありか」「そう来たかぁ」と、役者目線、演出目線で観てしまう。フフッ、演劇人にありがちだね。

演劇をやる側から観る側になった時、色んな感情が湧いて来た。
悔しさ、寂しさ、情けなさ、安堵……今ではいい思い出だ。
まあ、ずっとやる側でいられる人なんてごくわずかだからね。昔の仲間で売れてる役者が一人いるが、心から応援している。

ALSの私にいつまで劇場に行けるかは分からないが、行ける限りは行こうと思っている。だってそれが今の生きがいでもあるから。

アイツのせいで

だが、アイツがやって来た。世界を揺るがすことになるアイツが。
アイツはあらゆるものを無にした。もちろん演劇も。だから私の心は踊らなくなった。

私が最後に観劇に行ったのは2020年3月。4月の舞台もいくつか予約したけど軒並み中止に。
今はようやく復活して来たが、自分の病気のことを考えると観劇はどうしても躊躇してしまう。

果たして私の心が踊る日は再び訪れるだろうか。
あ~あ、アイツを恨むぜ。

                                   山村 ヒガシ

感想

私も新型コロナが蔓延する前は定期的に友人と遊びに行ったり、ライブに行くのが楽しみの一つでしたので、恨む気持ちがとてもよく分かります。
エッセイを読みながら心の中でうなづいていました。
”観劇に行くことが体調のバロメーター”の一文は、定期的に観劇やコンサートに行っていた方にとっては共感できるところではないでしょうか?
しかし、あれだけ頻繁に行っていたのに何年も行かない状態が続くと、逆に行かないことに慣れてしまう自分がいます。
早く何も気にせず出かけられる日が来ることを願っています。

 

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