Home患者さんのご紹介, 神経難病, 院内ブログ > 🌸ALS・生保・独居の私の引っ越し事情🌸~山村ヒガシ氏エッセイ 第4弾

🌸ALS・生保・独居の私の引っ越し事情🌸~山村ヒガシ氏エッセイ 第4弾

🌸ALS・生保・独居の私の引っ越し事情🌸~山村ヒガシ氏エッセイ 第4弾



さくらクリニック練馬 院長の佐藤です。
精力的にエッセイを執筆してくれている山村ヒガシ氏。
今回はその第4弾。今のアパートに転居した時の苦労話を書いてくださいました。
なるほど、こんなに大変なのか、と感心することしきり。
それにしても、毎度毎度 苦労話を明るくユーモアいっぱいに書いてくださるヒガシ氏。さすがです!

転居を余儀なくされる

数年前、杉並区北部のボロアパートの一階に住んでいた私は、ALSの進行で生活しにくくなり、仕方なく引越しすることになった。結構気に入った部屋だったのに。

間取りはALSの独居にしてはやや狭めの1DK(6・4.5)だったが、庭付きで、何より収納が二間あったのは良かった。だが玄関の段差がどうしてもネックになったのだ。

「外出が結構きついよねぇ~。特に玄関の段差が! 特にあの坂が! 特に真夏が!」

ちょっと大げさな表現を使ったが、複数のヘルパーさんから声があがった。道路から部屋に上がるまでに段差が三段あり、ヘルパーさんは車椅子の前を浮かせて段にのぼるのを三回繰り返さなくてはいけない。そして近所の下って上る谷のような急坂。当時の私は本当に外出が多かったのだ、観劇とか外食とか買い物とか通院ね。

更に、将来(気管切開)を見据えて部屋をもう少し広くした方がいいのでは? という医療サイドの考えもあった。

そんなこんなで新居へということになったのだが、生活保護の私は行政を頼って杉並区内で物件を探すことになった。まあ、ちょうどそういうタイミングだったのだ。

私達の住宅事情

生活保護で車椅子の重度障害者が借りられる部屋は本当に少ない、ということは噂では聞いていた。なぜ少ないのか、それは物件の条件が非常に限られているからなのだ。

まず都営住宅はほぼ無理だから、一般の賃貸物件で探さなくてはいけない。求めるのは今より広く、段差がないなど障害者に優しい部屋だ。

そして生活保護は家賃の上限がある。地域で異なるが、23区内は独居が53700円、私のような重度障害者や母子家庭が69800円、どこでもいいというわけではない。ちなみに引越し前の部屋は63000円だ。この部屋のレベルで63000円だぞ、杉並区は南へ行くほど家賃が上がるし、見つかるんかいなぁ。

以上をクリアした上で最難関が待ち構えている。それは大家さんの了承をいただくことだ。障害者に理解のある大家さんはまだまだ少ない。なんでだろ、やっぱり障害者ってイメージが悪いのかなぁ……。

という感じで探し始めるのだが、「想像するだけでない、果てしなくない。でもどこかが奇跡的に空いてるんじゃないだろうか」というのが当時の心境だったね。

自ら探しまくる

行政が紹介できる物件が少ないことを知っていた私は、私自身も探すことにした。ダメ物件の時はヘルパーさんも一緒に嘆いてくれる。

「ああ、この部屋もダメですねぇ。図面だとお風呂場はもっと広いのに、これじゃシャワーチェアで入って洗えないですよね。ホントいい加減な物件が多くて困る。また不動産屋回りしなきゃですね、見つかるまで付き合いますよ」

全部ダメだった、半年で十軒ぐらい内見したのに。パーフェクトな物件はないからどこかを妥協しなきゃならないのは分かってるんだけど、妥協できない物件ばっかり。行政から紹介された荻窪のふる~いマンションも、玄関前の共有通路が狭くて結局NG。

それからすぐのことだ、ひとつの物件が決まりかけた。杉並区北部のアパートの一階、2DK(6・4.5・4.5)で共有通路もそこそこ広く、目の前が公園の閑静な住宅街、そして家賃も範囲内で大家さんもOKだ。

「おおっ! ついにここで決まりかぁ」

純粋にそう思った。ところが思いもよらぬ事態が起こった。物件が引越し先として相応しいかを行政が審査した時に、「え? そんなことってある?」って思ったのだが、なんとなんと部屋が若干傾いていることが判明した。

私はアパートへ行ってみた。その時に立ち会った行政の人がパチンコ玉を床に置くと、なんということでしょう、パチンコ玉がゆっくりゆっくりコロコロ~っと転がり始めたではありませんか。

「こりゃNGですな」

いつ引越しできるんだろう……と、途方にくれながらネットを見ていると、気になる物件があった。ほほぉ~、練馬区か、築50年の平屋住宅、2DK(6・6・5)と広い……う~ん、部屋の写真を見る限り住宅改修すればいけると思うけど、生活保護って一軒家を借りていいんかなぁ、てゆーか練馬区に引越していいんかなぁ。あ、そういえば……。

「杉並区内でこの条件だと、一年間探して一軒あるかですね」

最近行った不動産屋に言われたことを思い出した。そうなんだよ、ないんだよ、そもそも杉並区内に私が求める物件はないんだよ。いいじゃないこの物件、広いし。とりあえず不動産屋へ問い合わせてみると、生活保護の障害者がOKだという。

私は相談支援員に話しを持ち掛けた。するとOKが出た。意外だった。ただ、杉並区と練馬区の間で生活保護の障害者の転出例がなかったらしく、引越し代とか住宅改修費とかの諸経費をどっちがどこまで負担するか、結構やり合ってたのはちょっと面白か……いやいやそんなこと言ってはいけません。自治体にとっては大きな問題です。

そして今の我が家へ

私は無事に引越すことができた。ヘルパーさんと医療機関を変えずに移行できた(今は変わっている)ことは本当に良かった。特にヘルパーさんが変わると、また探さなきゃいけないし、また研修しなきゃいけない。これは大変な労力なのだ。もちろんパーフェクトな物件ではないけど、それなりに平々凡々と暮らしている。

引越しのエピソードを長々と紹介して、結局何が言いたいかというと、障害者が住みやすい賃貸物件がもっと増えて、もっと簡単に借りられるようになればいいなってことだ。ちょっと単刀直入過ぎかね。でもこれは本心。

ALSを長年やってるとあっちこっちから聞く、「ああ、部屋が全然見つからないよ~」って。重度障害者の独居がどんどん増えてて、空き物件が溢れかえってる時代なのに、なんとかならんもんかなぁ。

う~ん、これは永遠のテーマにしたくない問題だよなぁ……だよね?

山村 ヒガシ

主治医の感想 

いかがでしたか?
ヒガシ氏のみならず、重度障害者の引っ越しは大変。なかなか見つかりません。
贅沢な要望を出しているわけではないのです。ヒガシ氏は、右の指先がわずかに動く以外、ほぼ完全な四肢麻痺なので、ヘルパーさんの介助なしには生活が成り立ちません。移動には車椅子が必須なので、大きな段差、車椅子が通れない狭い通路はNG。
ヒガシ氏は、将来的には気管切開をして呼吸器を着ける方針ですので、それなりのスペースも必要となります。
さらに、生活保護受給者の家賃の上限が決められているので、ニーズを満たす物件に当たるのは針の穴を通るほど難しいのです。
ヒガシ氏が書いてらっしゃるように、「空き物件が溢れかえっている時代なのに、なんとかならんもんか」と私もつくづく思います。

現在のヒガシ氏の住まいは、だいぶん(失礼!)年季が入っているし、玄関の上がりカマチは結構高く、玄関を出てからの道も凸凹、など難点はあるのですが、支援者共々いろいろ工夫しながら「それなりに」暮らしてらっしゃいます。

同じ境遇の皆さんは、たぶんこの苦労話に共感してくださるのでは?
システムとしてもっとやりようがあるのでは?とは思いますが、現状の中で何とか妥協してやっていくしかない。その中で辛い思いもあれば楽しい出会いもある。それもまた人生です。
多くの皆さんが、良い物件と奇特な大家さんに巡り合えますよう 切に祈ります。

 

 






Copyright © さくらクリニック 練馬 All Rights Reserved.