Home支えあい ともに歩む ~回復と成長の記録~ > 利用者ブログ【第2章 2- 食べるよ!(その3):嚥下訓練のステップ】

利用者ブログ【第2章 2- 食べるよ!(その3):嚥下訓練のステップ】

利用者ブログ【第2章 2- 食べるよ!(その3):嚥下訓練のステップ】

デフォルト画像

 

2 食べるよ!(その3):嚥下訓練のステップ

退院後ずっと在宅で過ごしていた息子ですが、検査のために車で1時間ほどかかる病院に出向くのは心配です。初回の外来は8月6日、なんと言っても真夏で、発熱、脱水、吸引など不安がいっぱいです。

【VF検査を受けるまで】

VE検査(在宅)失敗からVF検査(外来)まで2週間ほどでした。

ST介入中は「とろみジュース」数口の練習をしてよいとのことで、検査までに2回チャンスがありました。カフを膨らませ、サイドチューブから吸引しながらで、もし誤嚥による垂れ込みがあっても、すぐにではなく時間差で入ってくるのでしばらくはヒヤヒヤです。数口の飲む練習はほんの一瞬で、後の時間は口パク練習や口腔体操をお願いしました。

幸い夕方に看護師の介入があり体調の変化も確認いただくことができました。

【外来VF検査1回目(退院から1ヶ月後)】

VF検査室は地下の薄暗い部屋で、息子はジリジリ抵抗を始めました。家でVE検査を失敗しているので、無理に追い詰めずに検査ができるようセッティングを変えてくださいました。

最初は「とろみ水」にバリウムを混ぜ、スプーンで1~2口飲む評価です。

バリウムと言えば、人間ドックなどの「胃部レントゲン(胃透視)検査」を思い浮かべますが、「嚥下のVF検査」は飲み込む様子の確認なので、「グルグル」も「逆さま」も無く、みぞおちへの不意打ちパンチもありません。バリウムも微量で下剤は必ずしも必要ないそうですが、日頃、口から繊維質などの食品を食べていないので無事排出できるか心配でした。

最初はバリウム入り水で検査ですが、「水」とは言え、とろみとバリウムが入っており、見た目は「水」ではありません。嚥下の先生が「水だよ~」とか「牛乳だよ~」とか、最後は「ヨーグルトだよ♡」と暗示をかけますが、所詮同じ味のとろみとバリウムです。

なんども追加嚥下「ゴックン」を促し、口の中に残らないよう顔を左右に動かさせ、試し試しの検査でしたが、美味しいはずもなく、口に含んだまま「飲込み不完全(貯留がみられる。)」の評価となってしまいました。
それでも「リスクはあるけど、1ヶ月後にもう一度検査してみましょう!」とのこと。結末は次回へ持ち越しです。

【水分】
水やお茶、ジュース、コーヒーなど、普段何も考えずに飲んでいましたが、実は誤嚥のリスクが高いそうです。
日頃飲み慣れていても、とろみを混ぜると簡単には飲み込めません。口に含んでも簡単には飲み込めず飽和状態になります。試しにコップいっぱい(150cc)程度のとろみ入り水やお茶を飲んでみてもきつく感じます。
ただ、ジュースにとろみを加えたものは、それなりに味を感じて飲める印象でした。

【嚥下訓練→VF検査の繰り返し】

2回目の検査(退院後2ヶ月経過)
とろみ水(2%2口、1%1口)、エンゲリードゼリー(1口・アップル味)、コーンフレーク1口(病院で用意。)。
1回目の、「もう無理かも」との予想を覆し、ゴックン成功。依然として「貯留」はみられるが一歩前進! まだ「食べた」というレベルではありませんが、合格!

【エンゲリードゼリー】とは
消費者庁が定める特別用途食品「えん下困難者用食品:認可基準Ⅰ」の許可を取得した、飲み込みやすく口の中で溶けにくい(水分が分離しにくい)ゼリーです。在宅初期段階の嚥下練習に適しているとのことで、味はちゃんとしたゼリー(アップル味・グレープ味)です。

【カニューレ】はどうした?
カフは膨らませたままの嚥下練習でしたが、かえって飲み込みにくいためST介入時はカフを抜いてみてくださいとのこと。
「カフ」は誤嚥した唾液や食材をある程度食い止めますが、僅かな隙間から気管へ流れ込んでしまいます。「画像検査」ができないと、誤嚥してるか、続けられるかの判断は、一口飲んでは吸引、また飲んでは吸引の繰り返しです。それがかえって負担となり、上手にゴックン出来なくなってしまうこともあります。

3回目(退院後3ヶ月経過)
嚥下の先生から「病院のテスト用食材(食堂の残り物)は美味しくないので、息子さんが好きなものでやってみましょうか」とのお話。
とろみ水は経過観察なので同じものを最初に飲み込む必要があり「いつもの美味しくないやつだ」と諦めですが、次は息子が売店で選んだプリン(スプーン2口。100g未満)が出てきました。
思いっきりペロリ→合格!「好きなものは意欲がまったく違うねぇ(^_^)」

市販のプリンで「やや固めのもの」を購入、これにバリウムを加えて使うことになりました。
プリンクリアーで、「ヨーグルト」や「ゼリー」もOKとなり、メニューに幅が出始めました。いずれも分離している水分が少ないものを選ぶようしましたが、好きなもの(家ではもちろんバリウム無し)をパクッと食べてしまいます。

4回目(退院後4ヶ月経過)
とろみ水。カレー(具無し)+柔らかめのご飯を持参。最初にカレーの汁のみをスプーンで3口、その後、汁とご飯を混ぜたものをスプーンで3口。
せっかくのカレーでしたが、バリウムで白くなってしまい、ホワイトシチュー+ライス(臭いはカレー)のようになりました。それでも「復活」第一号はカレーライスとなり、満面の笑みです。
→もちろん合格!

ご飯単独では合格になりませんが、カレー合格でバリエーションが増え、例えばクリームシチュー、ビーフシチュー、中華丼など、いずれも具材無しで柔らかめのご飯と混ぜて食べさせます。特に威力を発揮したのは「卵かけご飯」で、最強のご飯となりました。
※この時期は食上げの大切な段階だったので、STさんの介入回数を増やし、週2回訪問をいただけました。STさんはどこのステーションでも人数がとても少なく介入回数を増やすことは難しいですが、このタイミングで集中介入していただけたことで食上げを確実に進めて行くことができたと思います。

5回目(退院後5ヶ月経過)
とろみ水。ドリア(具あり)を持参。病院の電子レンジでチン。スプーンで3口
カレーと同じように食べられそうなものとして「ドリア!」。いずれもご飯粒をまとめてくれるので飲み込みやすくなるようです。
→これも合格!

【怒濤の嚥下訓練】
11月24日 ご飯+中華丼(具無し)
11月29日 卵ご飯+ゼリー(交互嚥下)
12月08日 肉じゃが(介護食)+ご飯
12月13日 エビドリア(エビ抜き)
12月20日 カレーライス+ゼリー
12月22日 エビドリア+ゼリー(交互嚥下)
12月27日 牛丼(介護食)+ハイカロリーゼリー
12月29日 納豆ご飯、ネギトロ丼
12月30日 ロールケーキ、ソフトサラダ煎餅

嚥下の先生方に「お正月」を迎えるので、せっかくだから「おせち」を食べて良いかをお尋ねしました。皆さん「難易度が高いなぁ」との反応でしたが、協議の結果「栗きんとん(栗抜き)」と「伊達巻」ならいいよとのことで、無事「おせち」を味わいました。

―さくらクリニックからのコメントー
退院と共に訪問の言語聴覚士(ST)の方が関わってくださっていたので、嚥下の先生が検査で評価した内容を踏まえ、段階に応じた訓練を自宅で行いつつ、そのフィードバックを直接当院の主治医としてくださいました。
チーム全体(摂食嚥下リハビリの先生方/STさん/当方)でもメールを中心とした情報共有を行い、患者様の体調管理やご両親様の不安にも対応していました。
【管理栄養士さんにお世話になる】

食上げが進むにつれて、嚥下の先生から「管理栄養士の指導を受けることが望ましい」とのお話があり、さくらクリニック医療相談員Kさんに相談しました。

その結果、区内総合病院管理栄養士Nさんが訪問診療やリハの時間に同席していただくこととなり、適切な食材や調理方法、栄養バランスなどをご指導いただきました。
診察やリハのタイミングで関係者が一堂に会せたことで、進捗確認や留意事項、今後の方針などをその場で共有でき、とても助かりました。

―さくらクリニックからのコメントー
嚥下の先生から昼食を経口摂取に切り替えるにあたり「1食当たりの摂取カロリーを(経管栄養と同じく)600kcal程度になるよう管理栄養士の方に関わってもらえないか?」とご相談をいただき、地域の総合病院にお願いして栄養士のNさんにご訪問いただいたりもしました。
―総合病院管理栄養士Nさんからのコメントー
在宅の患者さんが食上げのリハビリを行っている現場に関われることはあまりないので、食べられるようになって行く過程を一緒に共有できることはとても嬉しいです。

6回目(退院後6ヶ月経過:VF検査最終回)
口から食べる練習も6ヶ月目を迎えることになりました。
家では飲み込みやすいよう小さく切ったり柔らかくしたりという工夫が必要ですが、食べられそうなメニューが増えてきたので、食卓で同じ物を食べられることもできそうな気がしてきました。

とろみ水。偽薬(錠剤:薬を飲めるかの試験)→合格!
6回目の検査は予想に反して「食べ物」ではなく「薬」を飲めるかの検査になりました。何が食べられたら「卒業」という合格ラインは人それぞれで決めるのが難しいかも知れません。日頃問題なく食べていても、ムセや誤嚥は起こります。小さなお子さんや高齢者には「小さく切ったり」「柔らかくしたり」は少しでもそのリスクを軽減できると思います。それでも危険をゼロにはできないので、ゆっくり食べさせる、しっかり噛ませる、無理やり飲み込ませないなどは永遠のテーマに思います。

【嚥下評価はいったん卒業】

ある程度、口から食べられるようになってきたので、この評価を踏まえ、次の注意点に気をつけながら、1日1~2食を普通の食事として慣れさせることとなりました。

1 食べにくい(噛み切れないもの、口の中でばらけるもの)食材は避ける。
2 常軟食~常食レベルの食形態で、ゆっくり食べる。
3 飲込みを確認してから、次を口に運ぶ。
4 食事の途中や終了後にゼリーを食べるなど口の中の残り物を飲み込めるようにする。
5 様子を見ながら途中でカラ嚥下、追加嚥下を促す。
6 歯に食べたものが付着していないか、隙間に詰まっていないかなどを確認する。
7 丁寧に歯を磨き、口をゆすぐ

―さくらクリニックからのコメントー
ご退院後、まったく口から食べられない状態からスタートして8カ月目には1日2食(朝食のみ胃ろうからの経管栄養を継続)をご家族と一緒に食卓を囲んでの普通食(常食)に切り替えることができました。
これで、摂食嚥下リハビリドリームチーム”お口から食べさせ隊”は役目を終えることになり、その後は、STさんが引きつづき発声練習の部分でご協力くださっています。

 

【それから5年ほど】

口から食べることは無理と思われていた息子ですが、ドリームチームの皆様のご尽力により回復への道が開けてきました。
しかし、口蓋の形成不全など誤嚥が無くなることはありません。無事食べ終えたと思えても、ちょっとしたムセや咳き込みで、自分である程度排出しているようですが、誤嚥してしまうものもあり、痰の量は一向に減りません。
今のところ、吸引や自己排出が上手くいっているのか幸いにも入院が必要になるほどの誤嚥性肺炎になることはありませんでした。

【食形態の今】

完全ではありませんが「口から食べている」と言えます。
朝食:経管栄養は相変わらず。
昼食:通所施設では介助により常軟食を経口摂取していましたが、ようやく常食にレベルアップできました。
夕食:常食を経口摂取
3食全部普通に口から食べるまでは到達できていません。

※誤嚥が起きているのは、脳挫傷に伴う神経障害の影響があるのではとの指摘を受けたことがあります。
※一番多く誤嚥しているのは本人の唾液ですが、食材では、まれにご飯粒や挽肉(ハンバーグやオムレツなど)が見られます。
※薬剤では、液体ベースのデパケンシロップ(抗てんかん薬)や、トランサミン(止血剤)など、また錠剤では口の中で溶けてしまうOD錠などもカニューレから出てくることがあるので、現在はお腹から注入しています。

【困っていること】

1 手指が不自由のためどうにかスプーンですくうことはできますが、いわゆる自食は難しく大半は介助で食べています。自食であれば自分のペースで食べられますが、介助の場合はタイミングが合わずに十分に飲み込む前に口に入れてしまい、ムセさせることがあり神経をつかいます。

2 生まれつき歯列に異常があり、また口が十分に開かないなど、口腔ケアがとてもやりにくいので、虫歯ができてしまいました。

今年の8月3本の抜歯を行いました。全身麻酔を伴う歯科手術(2泊3日の入院)で、何度もというわけにはいかないため「この際3本」となりましたが、抜歯のあと当面(すでに2か月経過)禁食で経管栄養となりました。ここでまた食べる力が落ちてきており、早く口から食べさせたいのですが、炎症を引き起こすリスクは避けなければなりません。

でも、さすがにそろそろ食べられるようにならないと、再び食上げのステップを歩むことになりそうです。



関連記事一覧





Copyright © さくらクリニック All Rights Reserved.